14

よくもおめおめと姿を現せるものだとストラスは心底感心していた。
広場のカフェテラスでぼけーっとお茶を飲んでいたのだが、
隣の席に彼は現れた。
立ち振る舞いは優雅で、英才教育を惜しみなく施された育ちのよさがにじみ出ている。
容姿も、それなりには良いほうであるが故に、時折通り過ぎる女性がちらちらと
彼を盗み見ては頬を赤く染めていた。
そんなことも相まってストラスはいら立ちを募らせていた。
何より現時点ではいろんなことの原因はこの男なのである。

「暇なんですか」

「私は忙しい」

「そーですか。僕もそれなりに忙しいんで、さっさとついてきてもらえますか?」

「それはこちらの台詞だな」

イフナースがカップをソーサーへ静かに置くとどこからともなく…正確には
その辺で世間話や買い物をしていたと思っていた男たちがのろのろとストラスに近づいてきた。
慌てる様子のないストラスを見てイフナースがいくらか警戒し始めた。
ほんとうならば、シヴァをゆるゆるとここで待って、用事を済ませた彼女が
自分のところへ戻ってくるその愛らしい笑顔に心癒されるはずであったのに、
どうしてむさくるしくでらでらと脂ぎった顔をした男たちに迫られないといけないのだろうか。
ストラスは心底遺憾に思っていた。

「私に同行してもらおう。ストラス」

「お断りします。あなたが僕についてきてください」

そう言ってお茶とセットで注文した焼き菓子を頬張る。
もりもり食べていると近づいてきた男の一人がストラスのテーブルへ手をついて
顔を覗き込むようにして話しかけてきた。

「あんた、フロウルでは一番弱いらしいな?あの女フロウルがあちこちに
触れて回ってたぞ?可哀そうだなあ?裏切られて!」

それが合図だったかのようにイフナース以外の男たちが一斉に笑い声をあげた。
自分たちが仲間です、とお返事をしてくれたことには感謝したがその数は20人ほどで
一斉に飛び掛かられたら恐らく手も足も出ないだろう。

ただし、一斉に飛び掛かれたらの話だが。

「フルフルがそういったんですか?」

「そりゃあもう自慢そうに喋ってたぞ?」

ストラスは顔を空へ向けて小さくため息を吐いた。
かつての仲間に裏切られてさぞかし心を痛めているだろう大きな眼鏡のフロウルを
男たちはあざける様に笑っている。
そんな下品な男たちの雇い主のイフナースには、生かして捕らえるようにと言われているが多少の暴力は許されている。
日頃から手荒な事が大好きで、それを生業にしているため、
慣れた一連の行動についつい油断しがちになっていた。
その上裏切ったフロウルからは弱い男だと聞かされていたので尚更だった。

「それを聞いて安心しました。ありがとうございます」

にっこりと笑ったストラスが、食べかけの焼き菓子が乗った皿を掴み、
挑発してきた男の顔面にそれを思いっきりぶち込むまでの流れがあまりにも自然だったため、
一瞬何が起こったのか、誰一人として理解できないでいた。
ストラスは、サートを太もものポーチから素早く取り出すとすぐに大きくして追撃を
お見舞いする。
地面にたたきつけられた男はお菓子のかけらまみれの顔をゆがませて痛みに
うめき声をあげた。
ようやく何が起きたのか理解した仲間の男たちが騒ぎだし、ストラスに飛び掛かっていく。
ナイフを突き刺されたり、こん棒で殴りつけられたり、巨漢の男に抱き着かれそうに
なったり、それらの攻撃をすべてかわしてサートである槌を男たちの体のあちこちに
打ち込んでいった。
それはものの数分で終了し、気が付けばストラス一人だけが佇んでいて
優勢と高をくくっていた男たちは最初の男と同様に、すべて地面でうめき声をあげており、
誰一人としてストラスに向かい合ってはいなかった。

「な、なんでだ…!あの女、弱いって…!」

「フロウルでは一番弱いですけど、あなた達よりも弱いとは言っていなかったんじゃないですか?」

苦しそうに腹を抑えながら、絞り出すような声でそう言う男に、
蔑んで言い放ったストラスの動きは確かに弱者のそれではなかった。
イフナースは最初の不安が命中したことで警戒をさらに強めた。
なにより、ストラスの戦い方を見て、並みの竜騎士や兵士以上の実力があると
認めざるを得なかったからだ。
ゆっくりと視線を移されたイフナースはようやく椅子から立ち上がり、腰に携えていた
剣の柄に手を添える。
明らかに緊張している自分とは違ってストラスはほとんど無防備と言っていいほど
自然体でその場に立ち尽くしているようにさえ見えた。

「竜騎士風情がフロウルに勝てるなんて思わないでください。
めんどくさいんですからさっさとつかまってくれませんかね?」

竜騎士風情、と言い放ったストラスがいつサートを振りかぶったのか
イフナースには見えなかった。
ただ、気が付いたときには顔に地面の冷たい感触を感じていて
イフナースが雇った気絶したごろつきの後頭部が視界に入ったのみだった。



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