12
「ねえシヴァ。お願いがあるの。ストラスをそれとなく、街の広場に連れ出して。
シヴァは危ないから別行動で。ねえ、シヴァ。お願い。ストラスの為なの。
これはシヴァにしか頼めないから…お願い、これはストラスには内緒ね、シヴァ」
目が覚めると部屋の中はすっかり明るかった。
かすむ目をこすりながら夢の言葉をゆるゆる思い出してベッドから飛び起きたシヴァは
部屋の窓すべての鍵を調べた。
だが、どれもしっかりと施錠されており、
窓も隙間なく締め切られている。
あるいは扉から侵入したのかもしれないが他の部屋にストラス達もいるのだから
家の中からと言うのは考えにくい。
けれどもシヴァはあの言葉が夢ではない確信があった。
(フルフル、なんで私にあんなこと言ったんだろう)
大急ぎで身支度を終えたシヴァは部屋を出ようとドアノブへ手をかけて
またフルフルの言葉を思い出す。
もしかしたら何かほかに伝えたいことがあったのかもしれないと思い
ストラスにも聞いてもらった方がいいかと思ったが
フルフルの声がとても緊迫していたのでそっと首を横に振った。
ストラスの為とはどういう意味だろう。
カルンに頼めなくて、どうして私なのだろう。
もしかしたらストラスを罠にはめようとしているのだろうか?
ぐるぐるとドアの前で考えていたら向こう側からノックする音が聞こえた。
「シヴァ?まだ寝ていますか?」
「お、起きてる!」
シヴァは驚いて少し声が上ずってしまったが極力明るい声で返事をした。
ドアをゆっくりあけるといつものおとぼけ顔のストラスが立っていて
おはようございます、と呟いた。
シヴァもおはようと返すと手短に朝食を済ませてここを出立すると告げられた。
出かけるのは好都合だったがフルフルに広場にストラスを連れ出してほしいと
言われたので心臓がドキリと鳴った。
本当に罠であればストラスが狙われて危ないかもしれない。
しかしシヴァにはどうしても、フルフルとエンケラドゥスが本当に悪い人になってしまったのだとは信じられずにいたのだ。
それが枷となってシヴァをさらに不安にさせていた。
「シヴァ?具合でも悪いですか?」
「ううん。あの、ストラス、私、用事があるから、ひ、広場で待ってて欲しいの」
「街の?」
「うん。急ぐ?」
「いいですよ。僕も一緒に」
「カルンについてきてもらうから大丈夫。それにすぐ用事が済むの。だから待ってて!」
「はあ」
ストラスはいつものとおり間抜けな声で返事をした。
シヴァは何も知らない彼をだましているのかと思うと胃がきゅっと締め付けられたが、
フルフルのあの切実そうな声を思い出すとやっぱりやめる、と言う気にもなれなかった。
二人が応接室へ向かうと朝食の用意が整っていた。
花柄いっぱいの食器の上には美味しそうな料理が乗っている。
テーブルにはすでにつらら菊、カルンが着席していて、ゴゴウはストラスたちの
すぐ後から眠気眼をこすりながら現れた。
食事の間、どこかぎこちない空気が流れていて、シヴァは昨夜のことを尋ねられずにいた。
ただ、カルンが暫くつらら菊のところに滞在してからシヴァ達の後を
追いかけると言う話が持ち上がるとえっ!と大きな声を上げてしまった。
「何か用事でもあったのか?」
「ううん、……」
「その代わり、俺がついていくからな、シヴァ」
「ゴゴウが??」
心底不思議そうなシヴァにゴゴウは得意げな表情を浮かべる。
「クソ真面目クンと一緒よりはやさしいおにーさんと一緒の方がいいだろ?」
「それは嫌味か?」
「気づいてんならもう少し面白みのある事言ってみろよ?」
カルンにじろりと睨み付けられたゴゴウは鼻で笑いながら持っていたフォークで
カルンを指差す。
話に流れでゴゴウはシヴァとストラス恩人枠に収まっていたが
シヴァにはまだ心の底からゴゴウを信用することができないでいた。
ストラスと仲の良かったフルフル達でさえ裏切っている状況で
一度助けられたから信頼しようとも思えなかったのである。
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