フルフルが盗賊の頭へ飛び掛ったのと同時にエンケラドゥスが
ストラスを押さえつけている男たちを毛で覆われた太い腕でなぎ払い、
他の盗賊たちをも吹っ飛ばすという人間離れした技でついには全員を気絶させてしまった。
二人が大立ち回りをしたおかげ…ほとんどエンケラドゥスの仕業だったが、
部屋の中はそれはもうめちゃくちゃになってしまった。

「もう少しうまくやってほしかったです」

「すまん…」

「エンケラドゥスが『ストラスが危ない!』って家の中飛び込んでいくから、
私もびっくりしたよ?」

「ありがとうございます。でももうちょっとうまくやってください」

「…片付け手伝うってば…」

とりあえず、と客人をもてなすためのソファとテーブルだけはなんとか設置しては
みたものの、部屋の中はぐちゃぐちゃでその部屋の隅には盗賊たちが気絶したまま
ロープにぐるぐると一まとめにされて巻かれている。
大惨事になったのは玄関からリビングまでだったので台所からお茶を用意して
出てきたストラスの小言にフルフルは小柄な体を抱き寄せるようにしてソファに座り、
エンケラドゥスは身体が普通の人間よりも一回り以上も大きいので
ソファに体が収まりきらず、床に胡座をかいて座っている。

「エンケラドゥスに合う椅子がなくてすいません」

「気にするな。ゼオリン族はもともと床に座る種族だ」

「でも…これじゃあ採掘は明日だね?」

「そうですねえ…」

本来であればこれから三人で採掘に出かける予定だったのだがこの騒ぎの後では
片付けと、盗賊たちを処刑場へ突き出す作業で今日を終えてしまうだろう。
昼間は牢屋へぶちこまれるし、家に帰れば盗賊に襲われるしでなんだか
今日はいいことが無い。
そんなことをため息混じりに考えているとあ、とフルフルが声を上げた。

「そう言えば、さっき女の子に会ってね、ドラゴンの涙はないかって聞かれたんだけど」

「えっ?」

「どうした?」

エンケラドゥスがその手に不釣合いの小さなカップを口へ運ぶ途中で
ストラスの声色に素早く反応した。

「いや、さっきの盗賊もドラゴンの涙を寄越せって…」

「え?何?ドラゴンの涙流行ってんの?」

「流行であんな高価なものほしがりますか?」

「……何かに使うにしても限られてるよね。ドラゴンの涙なんて……薬か…まじない…あと武器精製?」

「だが武器は槍と剣のみだぞ。それも扱うものも限られる」

唸るようなエンケラドゥスは外見のすごみがより、増していた。

「ドラゴン遣いだっけ。槍と剣って言えば」

「…女の子?」

「?うん。髪の長い、きれいな子だったよ。ここら辺の子じゃないみたいだったけれど」

ストラスが予想もしていないところに疑問符を置いたのでフルフルは何か気になる事でも
あるのだろうかと思い、自分を訪ねてきた少女のことを思い出す。
フルフルも、長くその少女と話したわけでも無いし、その少女も名乗らなかったので
どこの誰かまではわからなかった。
暫くストラスが考え込んでいるのでエンケラドゥスも心当たりがあるのかと思い尋ねた。

「何か気になるのか?」

「いや、それが今日家に帰る前に牢屋にぶち込まれてたんですけど、
その原因が女の子に変質者扱いされたって言うので…」

「とうとうか!?」

「やっちゃったの!?」

小柄な少女と大きな獣は勢いよく身構えたが、ストラスは
二人の心配を余所へ置き、その時の悔しさをにじませた表情をめいっぱい浮かべて
首を横に振った。

「残念なことに未遂なんですよ、ほんと残念でした」

「わかった…本当に悔しいのは分かったから…」

「女の子か……もしかしたら同じ人物かもな」

「はい。ただ、僕は顔をよく見ていないので」

「見てるのはあたしだけってこと?」

おそらく、とストラスは頷いて見せる。
フルフルは腕組みをしてソファの背もたれに体を預けた。

「発掘は無理だけど人探しくらいはできるよね。探しに行ってみる?」

こいつらつまみ出すついでに、と部屋の隅に捨て置いた盗賊たちを指さした
フルフルの提案に、ストラスとエンケラドゥスは無言でうなずいた。


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