2、3度ノックすると返事が返ってきたので、ストラスはそおっとドアを開けた。
シヴァはベッド端に腰かけているだけで、まだ眠る気配はなかった。
ゴゴウの言う通り、ちゃんと向き合ってみればシヴァはその年齢にたがわず
どこか不安そうにしていた。
シヴァを失うかもしれなかったのとストラスを守らなければいけない使命感と
フルフル達の行動で頭がいっぱいになっていたのは確かだった。
お蔭で少女の変化に寄り添う事ができなかったのである。

「どうしたの?もう出かけるの?」

「いえ、さっきはちょっと、言い過ぎてすみません」

「え?」

「ゴゴウに叱られました。シヴァが怖い思いをしてるのに一人にするなって」

「わ、私なら別に平気だよ!ストラス、つらら菊とお話あるんでしょ?行っても大丈夫だよ」

部屋の明かりは応接間や廊下と違ってシヴァが寝付きやすいようにと控えめになっている。
ぽつぽつと部屋の間接照明がストラスとシヴァを照らしていて
光を背にしているストラスの表情が良く見えなかったが、声からしてものすごく
落ち込んでいるのがわかった。
そんなにこっぴどく叱られたのかと不憫に思ったシヴァは
これ以上迷惑をかけないようにと必死に取り繕った。

「怖かったですか?」

「う、うん。でももう大丈夫だから、私、休むね」

「触ってもいいです?」

「さわ…?え?ス、ストラス!?泣いてるの!?なんで!」

シヴァはいつのまにかぎゅむぎゅむと抱きしめられているのも忘れて
めそめそと涙を流す大人にぎょっとしてしまった。
体格差からストラスの顔が後ろの方へいってしまっているので
ちゃんと確認はできなかったが鼻はすすっているしだんだん肩が湿ってきているから
恐らく、いや確実にストラスは泣いているのだ。
泣きじゃくる小さい弟を抱きしめてあやした記憶がふと蘇って
お母さんが以前、シヴァにもしてくれていたようにストラスの大きな背中を優しく撫でた。

「ごめんなさい。僕は君よりもストラスが大事で君にとても怖い思いをさせてしまいました」

ストラスの声が震えている。

「びっくりしたけど、誰だって自分の命は大事だもん。おかしいことじゃないよ?」

シヴァは母親のような口調で言った。

「僕は君にまだ話してないことたくさんあるんです。でも、まだ、言えない」

「大人の話なんでしょ?私が大人になったら教えてくれればいいよ?」

「僕はシヴァが僕を頼ってくれているのがとてもうれしい。そう言うのに
つけ込んでいるんです」

「えーと、それはダメなことなの?」

「普通なら卑怯って言われます」

鼻をすすりながらシヴァから離れたストラスはやっぱり落ち込んだような顔だった。
大人なのにとても子供のようでシヴァは少しだけくすぐったい気持ちになった。

「私はそう思わないよ。だから泣かないで」

シヴァはぽろぽろと自分の目から涙が流れ落ちていくのがわかった。
そして今度はシヴァの方からストラスを抱きしめた。

「すごい怖かったし、痛かったし、苦しかったけど、ストラスがすごく怒ってるのわかってたからいいの。大丈夫。心配してくれてありがとう」

ストラスが檻に閉じ込められ、手首に腕輪をされてまるで奴隷のような扱いを受けていたのにも関わらず、シヴァの首を絞めていた男をずっと睨み続け、
隙あらばとびかかる勢いだったのをシヴァはちゃんと知っていた。
フロウルはこの世界では貴重な人材で、ドラゴン遣いのシヴァよりも、
下手をすれば国の王よりも重宝されるような存在だ。
そう誰もが知っている、小さな子供でも、罪人でも、孤児でも。
人身売買の対象にされるような存在では決してないのだ。
それなのにただ、ドラゴンが操れるだけの小娘の為に動いてくれている。
フルフルも、エンケラドゥスだってそうだ。
今回、彼ら二人は裏切り者になってしまったが、そもそもシヴァに付き合ってくれていた
だけでも奇跡のようなものだった。

「いつか、シヴァに聞いてほしい話がたくさんあるので、それまでは一緒にいていいですか?」

「私、ストラスがいなかったらここまで一人で来られなかったよ。ストラスが来てくれるならとっても心強い」

「ありがとうございます…それでモノは相談なんですけど」

「ん?」

「キスしていいですか。同意がないと犯罪らしいので」

「!!!!!!!!だめ!!!!!!!!!へんたい!!!!!!」


さっきまでしっかり抱きついてシヴァは勢いよくストラスを突き飛ばした。
その勢い余ってストラスは段差のあるベッドから転がり落ちる羽目になった。

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