「カルンが闇市だなんて。どうなさったの?」

呆気にとられているつらら菊は2拍ほど置いて、ようやく返事を返した。
つらら菊が驚くのも無理はない。
カルンは真面目、実直、堅実……とにかくまがった事は嫌いだし、
人道から外れる行為など以ての外、それに付随する行為もまた同じ。
一緒にいるストラス達でさえ、よくも大人しくついてきているものだと
感心していたくらいだ。

「シヴァの手伝いをすると決めたからな」

「シヴァとは…この子の事ですか?だから『サートの涙』を
彼女に渡したのですか?」

視線を送ってくるつらら菊と目が合ったシヴァは、話の内容がわからないので首を傾げた。
カルンは一瞬口を開きかけたがすぐに閉じて無言のまま頷く。
あまりに自然な流れだったため、ストラス達はカルンが『何かを言いたそう』な
様子に気が付かなかったがつらら菊だけはそれを見落とさなかった。

「そうですか。フロウルが外界と交流を持とうと言う気持ちになる事はとても大事ですわ。
シヴァさん、カルンと仲良くしてあげてくださいね?」

「え?あ、は、はい」

大人と仲良くしてあげて、など未だかつて言われたことがなかったシヴァは少し驚いて
しどろもどろになりながら相槌をうった。
子供は大人のいう事を聞くものだと言われて育ち、子供はその大人に逆らいながらも
成長していくのを周りの子供たちから学んできたシヴァにとっては、
聞きなれない言葉だったのである。

「それでですね、つらら菊」

ずい、と体を起こしたストラスは話が終わったとみるや、大きな眼鏡を指で押し上げながら
本題を切り出す。
フルフルとエンケラドゥスは大人げがなさすぎると呆れた表情を浮かべてため息をついた。

「ああ、闇市でしたね。風の便りが来ていたので…お待ちください」

つらら菊は部屋の戸棚の引き出しから手紙を取り出すとその中の数枚をストラスに手渡した。
つらら菊の手には封筒が握りしめられていて、ストラスへ渡された紙は案内状と、出品される商品のリストがあった。

「闇市は昨日から開催されていて、あと2日間、期間があります。昨日はその…1から7までが出品されます。
今日は8からですから、ドラゴンが欲しいなら今日ですね。
わたくしは16の品が欲しいので闇市へは
明日行こうと思っていたのですけど…」

「タイミングばっちりですね…今日ですよ」

「マジで?なんかツイてんの?私たち?」

「闇市は3日間開催されるんだな」

「時間は夜から?」

「人数制限があるんだな4人まで参加できるのか…」

ストラスが読んでいるリストを後方からそれぞれ覗き込む。
大の大人たちが額を突き合わせてそれぞれ呟いているのを見てつらら菊は
子供のようだと呟きながらくすくすと可愛らしく笑った。

「それでは…カルンはわたくしとお留守番しててくださいな」

「どうして俺が」

「もちろん!カルンが『サートの涙』を渡した詳しい経緯を
聴取するためですわ!!」

つらら菊は目をらんらんと輝かせたかと思うと頬を紅潮させながら
鼻息荒く、スッと立ち上がりガッツポーズを決めた。
勇ましいその姿はつらら菊の可愛らしい容姿では半減していたが
『彼女にとっては』十分に勇ましく、そして少々はしたなかったので
周りが呆気にとられているのに気が付くと慌ててたたずまいを直して
愛想笑いを浮かべた。
シヴァは大人のカルンが留守番するかもしれないと聞き
少し不安そうにフルフルの腕をつつく。

「ねえ、私が行っても大丈夫なの?」

「大丈夫ですわシヴァさん。闇市とは言っても取り扱っている商品は非合法のものですが、
警備は万全ですし、取引もとても丁寧に行われますから…。
時々赤ちゃんを連れていらっしゃる方もいますよ」

安心してくださいな、と微笑みかけられたシヴァはつられて笑顔で返す。
こわばって、肩の力が入っていたシヴァはほんの少しだけ息を吐いた。

「ちょうど良いですね僕がシヴァをエスコートして、エンケラドゥスがフルフルを
エスコート……!」

ストラスが言い終わるか終らないかのところで自分の発言が失言であったと気が付く。
フルフルがみるみるうちに喜んでいくのが手に取るようにわかった。

「やったー!!エンケラドゥスとデート!!!」

「あーーー!待って!僕も!いや、でもシヴァが…いやでもエンケラドゥスが!!」

椅子から飛び跳ね、あたりをぴょんぴょんとフルフルが回りだし、
ストラスは苦悩の底に落ちて頭を抱えている。
何事が始ったのかとつらら菊とカルンがあっけにとられていると
シヴァがぽそりとたぶんもう少し続くから見てて、と耳打ちした。

「だめよストラス。エンケラドゥスは私のものよ」

恍惚とした表情でフルフル自分の頬に手を当て、
勝ち誇ったように言った。

「ああああああ」

いよいよ惨敗を認めねばならなくなったストラスは言葉にならずに
ただ落胆の声を上げて床へ崩れ落ちた。

「まて、二人とも。遊びに行くのではないのだぞ。デートなど…」

「「エンケラドゥスの彼氏の座は譲れん」」

狼狽えるエンケラドゥスにストラスとフルフルがきっぱりと言い放つと
エンケラドゥスはその気迫にたじろいで、ぴんと立たせていたひげが
垂れ下がってしまった。
大きな獣人であるエンケラドゥスが気圧されているのをじっと見ていたシヴァが
ぼそりと呟く。

「エンケラドゥスは彼女だったんだ…」

今初めて知った顔のシヴァが感心していたが
カルンはそうではないのでは?と心の中で呟いたがどうしてか
きっぱりとシヴァに言葉で伝えることができなかった。

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