10

ストラスに促されてベッドへ潜り込んだシヴァだったがしばらく眠ることができず、
無理やりに目を閉じてなんとか夢の中へ落ちることができた。
そして次に目を開けるとあんなに真っ暗だった窓の外が痛いほどの光で溢れた
朝日に包まれていた。
身支度を済ませてリビングへ行くとシヴァ以外の全員がすでに起きていて、
テーブルの上には食器が並んでおり、朝食の用意が整っていた。
みんなシヴァが目を覚ますのを待っていてくれていたらしく、
おそくなったことを謝罪すると大人たちが早く目を覚ましすぎたのだと
フルフルがかばってくれた。

「ストラスなんて華流斎にたたき起こされて掃除まで手伝わされてたのよ。笑ったわ」

「災難でした…いっそ天災でした」

「働かざる者なんとやらだ」

「なんで僕だけ…」

ぶつぶつ文句を言うストラスは湯気が立っているお茶をすすりながら
眉間にしわを寄せている。
家主である華流斎は、全員揃ったな、と言うと朝食を手伝いの女に運ばせる。
フルフルとシヴァも一人では大変だろうと、女についていき、料理を運ぶのを手伝った。
きゅうきゅうと鳴っていたおなかに食べ物を流し込み、しばらく
楽しい食事をしていた時、ふとストラスが闇市の事を華流斎に切り出す。
華流斎は食べていた玉子をお茶で流し込み、コップをテーブルへ置くと
一息ついて怪訝な表情を浮かべた。

「闇市ィ?そんなとこ行ってどーすんだよ?」

「フロウルの極秘任務なので、それ以上は聞かないでください。
場所を知っていたら教えてください」

「極秘なのにシヴァも連れて行くのかよ?」

「シヴァ絡みなのよ。知ってるの?知らないの?」

「前回はすぐ近くのシュクの街だったらしいけど次のはしらねーな……風の便りも来てねぇし」

答えを促すフルフルに華流斎は唸って首を横へ振った。
がっかりするフルフルとは対照的に、華流斎が何も知らないことを見越していたのか
ストラスはあっさり納得してもくもくと食事を続けていたカルンへ矛先を変える。

「じゃあ少なくともシュクの街では行われないって事ですね。カルン、カルンのサート職人を当たりましょう」

「つらら菊か…」

「何?問題あるの?」

「できればあまり会いたくはないからな…」

カルンは箸をおくと片手で頭を抱え、華流斎のように唸った。

「どこのフロウルもサート職人には会いたくないもんなんですね〜〜」

「なんだよ、ストラス。お前、俺に会いたくなかったのかよ?あ?」

「いいえ〜。すごーく会いたかったですよ!」

華流斎が凄んでストラスを睨んだがストラスはにこにこと笑いながらめっそうもない!
と首を横に振った。
会話に参加していないシヴァとエンケラドゥスの二人はストラス達の様子を
眺めながら黙々と食事を続けている。
家族を殺され、故郷を焼かれて、自分自身も一度は命の危険にさらされた上、
敵の手がかりを探しに来たらその希望が途絶えてしまい、さぞ落ち込んでいるだろうと
心配していたが、ちらりとシヴァへ視線を移したエンケラドゥスは少女がこの光景を楽しそうに笑いながら見つめていることにいくらか安堵した。
恐らく、ストラスが何か励ましの言葉をかけたのだろう。
ストラスは大勢多数の人間との人付き合いは上手くはないが、
仲間と認識した人間への気遣いは感心するほどだった。
それを、他の人たちにも均等に分けて生かせれば誤解なく人間関係を築けるはずなのに、
どういうわけか複数人が相手となると途端に下手くそになった。
おかげで周りから少し特殊な人間と捉えられてしまっているが本人が気にしていないので
エンケラドゥスやフルフルもそれに倣っている。

「カルンのサート職人はどこにいるの?ボータから遠い?」

「いや、ボータから一つ街を挟んだところの、ゴルゾーニュの首都ピセッツィにいる」

「大きい都市にいるんだね」

感心したシヴァにカルンが頷く。

「つらら菊はきれいな物や華やかなものが好きだからな」

「僕は苦手ですね。目がチカチカします」

「あ〜ちょっとワカル。あんまりゴテゴテしてるとおなかいっぱい!って思うよね」

「そのおなかいっぱい!を全身で体現しているのが、つらら菊だ」

カルンはため息交じりに呟いた。


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