大人はどんなに仲が悪くても、久しく会っていなかった相手と再会して
酒を飲むと一時的にでもその間にあるわだかまりが解けるようだ。
その輪の中に、初めて会う人物や憧れの人がいればなおさらに盛り上がれるらしい。
シヴァはそんな光景を何度か集落でも見てきた。
みんなの中で一番子供っぽそうなストラスが酒をあおっているのを見ると
なんだか不思議な感じがする。
子供でも退屈しないようにとみんなが気を使って食べ物や飲み物、もちろん
アルコール以外を勧めてくれる。
食べたいと思ったものが大皿に乗っていると目ざとくフルフルが気づいて
取り分けてくれていた。
だから集落ではのけものだった子供のシヴァも、
ここではみんなと楽しい『雰囲気』を味わうことができた。
時々困るのは、彼らだけの昔話をされるとその会話に入っていけないことぐらいである。
散々騒ぎ倒した大人たちは、満足するだけ飲み食いすると
各自あてがわれた部屋へ戻って行った。
食べたり飲んだりした後片付けをお手伝いの女がもくもくとしている。
シヴァは借りた寝間着に着替えて一度はベッドに入ったのだが、
なんとなく目が冴えてしまい、嵐のように騒がしかった広間へとまた戻り、
その女の様子を椅子の上で膝を抱えて眺めていた。

「眠れないですか」

「私知ってる。ストラスみたいなのを蟒蛇って言うんでしょ?」

「そういうのはフルフルがそれにあたります。僕はそれほどじゃないです」

気遣って声を掛けたつもりだったがどうやら小さいお姫様はご機嫌がななめらしく、
返ってきた言葉には小さなとげがあった。

「次はどこ行くの?」

「シヴァはどこに行きたいですか?」

「私?」

シヴァはびっくりしてストラスの顔を見つめた。
ごく当たり前のように、大人のストラス達が進路を決めて、そこへ赴くのだと
信じて疑わなかったから、子供のシヴァはほとんど何も考えていなかったのだ。

「質問が間違ってましたね。シヴァなら、どこに行きたいですか」

「『私なら』…」

野盗を探すと決めた自分が何も考えていなかったのに気が付いたシヴァは
最後にテーブルを拭いて、山積みになった皿が載せられたワゴンを押して
広間をでる手伝いの女の後姿を見つめる。
ドアの向こうに女が吸い込まれていくと広間はなんだか一気に静かになった気がした。

「闇市になら、野盗はいる?」

「どうでしょう。目当ての商品がなかったり、出品したものが売れてしまっていたら、いないかもしれません」

「あのね。子供って結構大人の話聞いてるんだよ。
前に闇市の人っぽい男の人たちが集落に来たことがあるの。
ドラゴンの死体が欲しいって。お父さん達大人はそんなものないって
その時はその人たちを追い払ったんだけどそう言う人達って
2〜3日は食料調達の為に集落に滞在するんだよね。その時に
面白半分で友達と一緒にその人たちの話を盗み聞きしたことがあるの」

「何をですか?」

「闇市にものを出品するときは時間がかかるんだって。登録に2日。審査に1日。
それから会場の設営に2日。早い時は設営の部分を省くらしいんだけど
高価なものほど高価に見せる為に売る人は物を置く台?の、飾り付けに気を配るんだって」

シヴァも話の内容のすべてを理解できているわけではなかったが
ざっと大まかにストラスに説明して聞かせた。
ストラスは相変わらずぼけっとした顔でシヴァの話を聞いているように見えたが
だんだんとストラスの事がわかってきたシヴァには、今、
彼が結構驚いているのだとちゃんとわかった。

「…売れてしまっていたら終わりですけど、もしまだ売れてなかったら、まだありますね」

「うん。なんか話も聞けるかもしれないし」

ずり下がった眼鏡を人差し指で押し上げたストラスはただ無言で頷いた。

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