「聖地って…」

「何もねーだろ?ごちゃごちゃしてる鍛冶屋はまあ、普通の武器を作るところだな。
俺んトコはフロウル専門の鍛冶屋だから。まあ今から実演してやっからよく見てろ」

ストラス達が閑散とした空間に呆れた様子を見せると華流斎は肩を竦めてから
折れたサートの槌の方を手首を器用に回してもてあそんだ。
そして見ていろ、と宣言したところでサートの槌の方と柄の方をそっと
床へ置き、シヴァがドラゴンを召喚するときのように、魔法陣がサートの下の
床に現れると華流斎の指先から赤くほのかに光る細い糸のようなものが無数に飛び出した。
糸はそれぞれに意思を持っているかのようにサートを包み、やがてゆっくりと
宙へ持ち上げていく。
赤い糸のようなものはどんどん折れたサートをぐるぐると包んでしまうと
太く大きな糸巻のような形になった。

「きれい…」

ため息交じりにシヴァが呟くと華流斎はその言葉を待っていたかのように
にやりと笑みを浮かべる。
ほんのり光を帯びた糸はしばらくモゾモゾとうごめいていたが、今度は
命が尽きたかのようにホロホロと火の粉になってほどけていく。
この時初めてストラス達は糸が炎でできたものなのだと気が付いた。

「っと、こんな感じで、一丁上がりだ」

炎の糸で巻かれたサートは傷一つない新品同様にピカピカになって華流斎の手の中に現れた。
真っ二つに折れていた柄もひび一つ無く、むしろ以前よりも丈夫そうに見えるほどだ。

「へー。サート鍛冶の製作現場ってこんな感じなんですか?」

「まあ、大体はどこも同じだな。ただ糸の太さは鍛冶職人によって差があるけど」

「シヴァ、シヴァが牢で見たのと、違いますか?」

「全然違う。こんなに綺麗じゃなかったし、それに私が見たのは鉄格子の鍵が溶けたのだもん。あんなきれいな糸なんて一つも出てなかった」

シヴァは首を横に大きく振りながらきっぱりと言い切った。

「なんの話だ?」

華流斎が首をひねりながらストラスのサートを軽々と振り回す。
ストラスが脱獄犯の事を話すまいか迷っているとエンケラドゥスが肘で
ストラスの肩を小突いた。

「えーと、サートを作るのはさっきの要領でやるにしても、
鉄を溶かしたりとかは貴方たちサートの武器職人には
難しい事ですか?」

ストラスはとっさに脱獄犯の事は伏せて鉄を溶かす方法だけを聞き出そうとした。
シヴァが何か言いかけたのを華流斎にわからないように
フルフルが制止する。

「鉄を溶かす?魔法陣でか?」

「はい」

「サート職人は鉄なんて溶かさねーよ。そりゃむしろ水属性のやつらじゃないのか?」

「水?」

「俺も実際見た事ねーし、詳しいことはわかんないけどな。
サート職人は火属性で『作り出す者』、水属性のやつらは『循環させる者』って言ってな。
とにかく、形あるものを液体にする…、ような感じの事を聞いたことがあるぞ」

「どこでですか!」

「先代。死んだけど」

「あ〜〜!タイミング!!」

ストラスが勢いよく詰め寄ったが華流斎は驚く様子もなく淡々と答えた。
フルフルは今にも地団太を踏みだしたい気持ちを抑えながらも、
歯を食いしばって天を仰ぐ。
牢の鍵を溶かしたのが火属性であるサート鍛冶で無かった上に、
かすかな望みがある情報もあっさりとここで途絶えてしまったのだ。
落胆の色は大きい。

「他に詳しく知っている人っていませんか?」

「どうだろうな〜。水属性のやつって数がそんなにいないらしいし、
サートの職人もそう言う話知ってるやつも少ないらしいし、
なにより職人の中で一番知識があって一番歳食ってたの先代だったしな…」

「望み薄、ですか」

「少なくとも、俺は知らないし、知ってるってやつも知らない」

「足取りが途絶えたな」

「やだも〜〜〜!」

「困りましたね〜。今の話が本当だと、カルンの職人の方も似たような答えしか
返ってこなさそうですね…」

「なんだよ。その水属性の奴がなんかしたのか?脱獄とか?ははっ」

「面白い冗談ですね華流斎。あ、サートありがとうございます。あと今日は泊めてください」

「てめーはしらねーけどエンケラドゥスと女どもはウエルカムだ馬鹿野郎」









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