壊れたサートを間の抜けた顔をしながら抱えているフロウルの前に現れた男は
乗ってきた獣を乱暴に停止させて背中から飛び降りると、ストラスの前まで大股でやってきた。
壊れたサートと、ずり下がっている眼鏡をなんとか押し上げたくて持ってるサートを落とさないように、
しかし眼鏡へ指を伸ばそうと四苦八苦しているフロウルを交互に見やって
フロウルへ腹の底から声を出して怒鳴りつけた。

「俺様の作ったサートをこんな有様にしやがって!てめぇ何やってんだ、ぶっ殺すぞ!?」

「まあ、落ち着いてください華流斎。ほら、みんな見てますよ」

「ああ!?んなもんどうだっていいんだよ!問題はてめぇがサートをぶっ壊しやがったってことだ!」

華流斎は相当腹を立てており、ストラスの胸ぐらを掴むと、今すぐにでも殴りかかりそうな
勢いで眉間にはしわを寄せて息を荒くしている。
2、3歩離れた場所で様子を伺っていたフルフルとシヴァとカルンは、今までに出会った事がないタイプの派手な男にあっけにとられていた。
何より、何もかもが正反対であろうストラスと並ぶとその異様さが引き立っている。

「実際に壊したのは僕じゃなくてエンケラドゥスです」

「すまない、ストラスの職人」

「え、エンケラドゥス……!?」

ストラスは胸ぐらを掴まれても凄まれても慌てておらず、へらへらしながら自分のサートを
へし折ってくれと頼んだエンケラドゥスを指さした。
エンケラドゥスはストラスに頼まれたとは言え、フロウルのサートを破壊したのは事実だと、
凄い剣幕でストラスを非難している職人に謝罪の言葉を述べたが、
ストラスの場合とは違い、華流斎は火が消えたように大人しくなった。
大人しくなったと言うよりはエンケラドゥスを見て驚いているらしくストラスの胸ぐらを
掴んだまま凝視している。

「エンケラドゥスですよ〜」

「嘘だろ、本物!?」

「本物なんです。なのでちょっと…放してもらえます?」

「うおおお!初めまして!俺華流斎っす!憧れてます!握手してください!!」

「……なにアレ」

「華流斎、エンケラドゥスのファンなんですよ〜。前から会わせろ会わせろって言われてたんですけど、タイミングいいかなって」

「ほお、エンケラドゥスを餌にしたと」

「人聞きの悪い。仲介ですよ、仲介」

華流斎に突き飛ばされつつもなんとか逃れたストラスがこそこそとフルフル達の方へやってきてこともなげに言う。
大はしゃぎでエンケラドゥスに話しかけている華流斎は先ほどの剣幕とは違い、
目をキラキラとさせた少年のように頬を赤くさせて興奮を抑えきれない様子だ。
ただ、華流斎は怒っていても喜んでいても騒がしく、あたりを歩く人たちの視線がどうしても集まってくる。
騒がしい中にいるはずなのにそれ以上にうるさいのだ。

「華流斎よ、とにかく落ち着け。私たちは話がしたいのだ」

「そ、そうだよな、うちに来てくれよ、すぐそこだから!ストラスてめぇ来るなら
来るって言っとけよ!」

「来ますよ〜」

「おせーんだよ!」

エンケラドゥスの隣をキープしつつ、華流斎は乗って来た獣の手綱を引いて後ろを歩くストラスに悪態つく。
シヴァが壊れたサートを抱えるストラスの服の裾をくい、と引っ張った。

「ねえ、あの人がストラスのサートを作った人?」

「そうですよ。センスは酷いですけど、腕は確かです。あと口も悪いし態度も悪い」

「…いいとこは腕だけなの?」

「イイヒトですよ」

ストラスは即答したが本心からなのか冗談で言っているのかよくわからなかった。
子供のシヴァよりも落ち着きがない華流斎を先頭にして、フロウル達はストラスのサートを作った武器職人の華流斎の家に向かった。
華流斎の家は街の中心から少し離れたところで、周りには工具や何かの部品が売られている店や、その部品を修理する店が並んでいた。
どこも無機質な造りの家や建物が多い中で華流斎の家だけは緑がぽつぽつと置かれていて
空気も澄んでいる。
石の塀で囲まれた芝生が敷かれた大きな庭を抜け、木造の家へみんなを案内する。
しかし華流斎はストラスだけを呼びつけ、自分の工房へ連れて行こうとしたのでシヴァは慌てて駆け寄った。

「わ、わたしも行きたい」

「なんだ。ガキの来るとこじゃねえんだぞ」

「社会見学ですよ。いいじゃないですか」

「はあ?なんだよ、こいつ、てめぇのおんっ!?」

「…私も見学させてもらおう」

何かを言いかけた華流斎の肩へ『やさしく』手を置いたエンケラドゥスは大きな体を
かがめて、後ろから覗き込むように言った。
エンケラドゥスに頼まれては断れないと華流斎が頷くとそれなら私も、とフルフルが声を上げ、カルンは荷物を置いてくるとひとまず華流斎の家の世話をしていると言う女と
共に部屋へ向かった。
ストラス達は華流斎について工房へたどり着くと物珍しい光景にあたりを見渡した。
武器職人の工房と言うからそれらしい道具が並んでいるのかと思ったが、
そこにあるのは木で作られた簡素な椅子が数個と同じく木製の無骨なテーブルと、
作りかけらしいサートが数本が立てかけてある棚が奥に設置されていて
それ以外には火の気のない大きな窯があるだけだった。

「ようこそフロウル共、俺の聖地だ」





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