「今はこんな事で時間を取っている場合ではないんじゃないか?」

「そうですよフルフル、そのあたりで…それに僕が嫌われてる理由もわかったし」

「そういえば、そうだね」

鞄からこぼれた荷物をすべて拾い切ったストラスがおずおずとフルフルを宥めると
フルフルはあっさりと怒りを収めた。
いつまでも怒りを引きずらないところがまたフルフルの良いところでもある。
カルンも彼女の後引かない性格を知ってるからかそれ以上フルフルが腹を立てるようなことは言わなかった。

「さて、それでじゃ改めて野盗の行方を追うとしようか」

「でもアテが無いんじゃ、ねえ?」

エンケラドゥスに促されたがフルフルはお手上げだと肩をすくめた。

「なまじ正規ルートにばっかりお世話になってる真っ当なフロウルですもんね。僕たち」

「真面目じゃない、悪そうな知り合いってそうそういないし……うーん…ん?いるわ」

「何処にだ?」

「カルン、ストラス。あんたたちの武器職人よ」

何かを閃いたフルフルにカルンが先を促すとフルフルはカルンとストラスを指差す。
お互いに武器職人と言われて思い浮かべた人物は確かに今ここにいるメンバーよりは闇市の
情報をつかんで『いそう』な人物だった。
しかしストラスもカルンもフルフルの提案には手放しに喜べなかった。

「あいつか…」

「僕会いたくないです。うるさいし…」

「でも、知ってるかもしれないなら会いに行こうよ」

「シヴァもっと言ってやって。こいつら本当に面倒ごと嫌いなやつらなんだから…」

渋っている二人へ励ますようにシヴァが言うとフルフルはあともう一押しだと
シヴァをけしかける。
年下の女の子に背中を押された二人は今はそれしか手がないのだからと、
ため息混じりにうなずいて見せた。

「お前の職人はどこにいる?」

「僕のはボータにいるはずです」

「ならストラスの職人のほうが近いな。まずはボータに行こう」

カルンはそう言うなり、家の中を行ったり来たりしだした。
くつろいでいるストラス達を横切る度に手にいろいろな荷物が増えているので
度の支度をしているらしかった。
ストラスが床にこぼしていた何に使うかもわからないガラクタとは違い、
サバイバルに役立ちそうなナイフやランプなどを手早く自分のカバンに詰め込んだカルンは
あらかた用意が終えた頃、一番最後に自分のサートを手にした。
サートのホルダーを腰に掛けて準備が完了したことを見せつけるとストラス達は
ゆるゆると出発の準備を始めた。
更紗の町に来た時のようにまたシヴァのドラゴンの背に乗ってボータへ向かう事になったのだが
ストラスはまたドラゴンへ乗る順番にこだわった。
けれども今度はカルンがさっさとその順を決めてしまい、ストラスは二度目の
仏頂面を披露するはめになった。
ドラゴンで上空を飛んでいる間、カルンは物珍しげにあたりを眺めていた。
ストラス達もドラゴンに乗った経験はほとんどなかったがカルンほど景色を楽しもうとは
つゆほども考えていなかった。
カルンはあの山の上空から見る形がきれいだとか、川はここから繋がっていたのかとか
独り言のように呟いていたがやがてシヴァがその話に耳を傾け初めてついには話に花まで咲きだした。
フロウル達よりも空からの風景に慣れ親しんでいたシヴァはまたこうして
ドラゴンの背に乗って空の景色について話が出来る人間が出来てうれしそうだった。
やがてストラスが言っていた都市、ボータが見えてくるとシヴァはドラゴンに少し離れた場所へ降下するよう伝え、ストラス達はまた地に足を付けた。
どれだけ空の景色がきれいでもやはり地面に両足がついていると言うのは安心感がある。
ボータは炭鉱の採掘で発展した都市で街には蒸気が噴き出すパイプが壁伝いであったり、
地伝いに張り巡らされている。
心なしか、街の中は薄暗く、日の光が遠く見えた。

「それで、どこにいるの?」

「こちらから出向かなくてもあっちから来てもらいましょう。面倒なんで」

「は?」

「えーとエンケラドゥスのサートで僕のサートへし折ってください」

「いいのか?」

「怒られるよ…」

「すっ飛んできてくれるならいいです」

フルフルはあーあ、とあきれ顔で肩を竦めるとシヴァの手を引いてストラスとエンケラドゥスから少し離れる。
エンケラドゥスはストラスが地面に置いたサートが動いてずれないようにしっかりと
地面に押し付けてから、ストラスのサートの数倍あろうかと言う自分の大きなサートを
取り出して思いっきり叩きつけた。
ストラスのサートの柄は意外なほどにあっさりとへし折れ、使いものにならなくなってしまった。
ストラスが使いものにならなくなった自分のサートをひょいと拾い上げると
槌の部分がてこの原理でゆらゆらと揺れる。
サートを持ち上げたストラスは何かを待っているようでしきりに辺りをきょろきょろと見渡し始めた。
その様子は何かを警戒しているようで、ドラゴンが何かよくないものが周りにいる時に警戒する時と似ているとシヴァは思った。
街の中は薄暗かったが人通りが多いためさわさわと賑やかだったがどこか遠くから何かが凄まじい勢いで迫ってくるような音がしてフロウル達はそちらへ一斉に視線を向ける。
すると、そこには土煙を上げながら、大きな虎のような獣にまたがった男が、雄たけびをあげて現れた。

「ストラスゥウウ!てめぇー!俺様の大事なサートになんて事しやがってんだゴルァァア!」

「…あー、うるさい」










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