シヴァとストラスがカルンの家に戻るなり、家の主のカルンは端正な顔を歪めてシヴァへ謝罪した。
彼はドラゴン遣いの集落の状況をストラス達に伝えていただけで、シヴァへ謝る必要などないのに、
配慮が足りなかったと言って年下のシヴァへ頭を下げたのだ。
びっくりしたシヴァは慌ててやめさせようとしたがフルフルに止められた。
カルンなりのけじめだからやらせてやれと言うのだ。

「お詫びに、俺も協力する。シヴァに」

「そこを僕を睨みながら言うんですか…別にいいですけど…」

しゅんとしたストラスに鼻を鳴らしたカルンは、更紗の町では一番上等であろう質の良い
絨毯が敷かれた床の上を颯爽と歩き、戸棚に等間隔に並べられたうちの
小瓶を一つ手に取る。
小瓶を振って中身を掌へ乗せるとシヴァのもとへ戻り、その前に跪いた。
シヴァは短い人生の中で、大人の、しかもこんなにかっこいい男の人に
跪かれた経験がなかったのでとても驚いた。

「シヴァ、これは俺の『サートの涙』だ。これを、肌身離さず持っていてくれ。
そうすれば俺は君がどこにいてもかけつける」

「あー!ずるい!ずるいです!僕も!ええと…どこにしまったけな…!」

カルンが差し出したサートの涙を掌に握らされたシヴァは手の中にある
ほんのり温かい、丸みを帯びた結晶のぬくもりを感じた。
されるがままに持たされた涙を見つめていると急にストラスが慌てだして
自分の荷物をごそごそと漁っている。
手を動かすたびにカバンから何に使うのかわからないようなガラクタがぽろぽろと床に落ちて
ストラスはあたふたもたくさしていた。

「あの、カルンが、サートの涙を渡すなんて…怖い。もうやだ怖い」

「お蔭でストラスに変な火がついてしまったな。困った」

よほど慌てているのかストラスは鞄を漁るたびにずりおちそうになる眼鏡を指で押し上げ、
鞄から落ちた持ち物を拾い、その拍子に鞄からまた別の持ち物が落ちる、を繰り返している。
その度にエンケラドゥスは落ち着け、と拾い上げるのを手伝ってストラスを宥めていた。

「あの、これってなんなの?」

「それはねぇ」

「それは『サートの涙』と言って俺たちフロウルの持つサートの一部分であり、サートの予備のようなものだ」

急に騒ぎ出した大人たちに不安を覚えたシヴァは握っていた手を開く。
説明しようとしたフルフルを遮ってカルンが説明する。
少々ムッとしたフルフルに肩を竦めてみせたシヴァはカルンの言葉に眉を寄せた。

「それってとても大切なものじゃないの?」

「大切だから君に持ってもらうんだ」

「『サートの涙』はフロウルの第三の心臓だ、シヴァ。それを他人に渡すのは
渡した人物に忠誠を誓うと言う意味もある」

「えっ!?」

「あ〜…もう最悪…なんでカルンが……」

カルンにまっすぐ見つめられたシヴァはエンケラドゥスの言葉に驚いた。
フロウルは本来誰かに忠誠など誓わない。
国や王など権力者や顧客に雇われたりすることはあるが主と従者のような
関係には滅多になならなかった。
フロウルと言う職が、努力でなれるものではなく才能や素質でなるものであり、
それ故にフロウル自身の気位が高いのが多い。
気位と言うのは自分の力に傲慢になっているのではなく、本能的に
自分たちの持つ能力が誰かに支配されてはいけないとわかっているからだ。

「さっき怖がらせたから引け目感じてるにしても、ちょっと大げさじゃないの?」

「大げさかそうでないかは俺が決めることだ」

「かっこいい…くやしい…」

「そもそもお前は動悸が不純なんだストラス、不愉快以外のなにものでもない」

ストラスが悔しがっていると、カルンは侮蔑の眼差しで床に1つ2つと落ちている持ち物を
拾っている男を見下ろす。

「…、あー。僕が貴方に嫌われてる理由って『ソレ』ですか」

「いつまでもお前とつるんでいるフルフルとエンケラドゥスの気がしれないな」

妙に納得できたストラスは何か、もっと大層なことでもしたのではと思っていたので
意外な理由にあっけにとられた。
カルンの言う通り、今までフルフルとエンケラドゥスがストラスの性癖に
露骨な嫌悪感を示さずに付き合ってくれていたのですっかり忘れていたのだ。

「それこそ、あたしたちがストラスと一緒にいるのはあたしたちが決める事よ。
カルンに迷惑かかったことあるの?」

「ふ、フルフル?」

ストラスが腹を立てるべき場面でストラス本人よりも頭に来ていたのはフルフルだった。
フルフルは喜怒哀楽のはっきりした女性で三人の中では物をはきはきと言う。
ストラスは理詰めで相手を怒らせるが、フルフルは言い合いの果て、勢いで怒らせることが多い。

「確かにストラスはロリコンだけど、ストラスが誰を好きになろうとあんたに
関係ないことじゃない。あたしそう言うの大っ嫌いなのよね」

「フルフルかっこいい…」

はー、とため息をはいたシヴァはキラキラした眼差しで年上の女性を見つめている。
確かにフルフルのきりっとした姿は異性でもかっこいいと思わせるが、
相手はカルンだ。
険悪な雰囲気をなんとかしたいがストラスには仲裁能力があまりない。
そういうのはエンケラドゥスの方がまだ得意だが、
そのエンケラドゥスの仲裁能力もストラスとはスズメの涙程度の差しかないのだ。
このままでは喧嘩になりかねないとストラスがハラハラしているとカルンがため息を吐いた。





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