「ねえ、どこで降りたらいいの?」

「そうね〜とりあえず麓で宿とってからカルンのところ行こう」

「ストラス、それでいいか?」

「いいですう……」

ぶすりとした声でストラスはエンケラドゥスの背中に張り付いて答える。
結局、フルフルの仕切りでシヴァ、フルフル、エンケラドゥス、ストラスの順で
ドラゴンの背中に乗ってスォード山脈の麓まで飛んで来た。
ドラゴンは人間と獣人が乗っても重さを感じていないらしく、悠々と空を飛んでいた。
時折、シヴァが声を掛けてやると嬉しそうに鳴いたりもしていて、
ドラゴンを召喚した時もそうだが、
この少女が本当にドラゴン遣いなのだとフロウルの三人は改めて実感していた。
シヴァはフルフルに言われた通り、麓の町から少し離れたところでドラゴンを下降させた。
徒歩だと10日ほどかかる距離を半日とかからず到着してしまったというのに
ドラゴンはまだ疲れ知らずでシヴァとまだ遊びたそうに首を上げたり下げたりしていた。
シヴァは少し不満げなドラゴンを魔法陣に戻すとドラゴンはチリチリと音を立てて消えた。

「カルン、家にいるかなあ?」

「さあ…僕行かなきゃいけないんですかね…」

「そりゃあね。シヴァも行くし」

「やだなあ…」

宿へ向かいながらそんな風に話しているとやはりエンケラドゥスが目立つのか
近隣の住人達の視線をひしひしと感じる。
麓の町は王都から離れているにしても山脈地方の数ある町の中では一番規模が大きいところだ。
更紗の町と言う他の町と違って珍しい名前もそうだが、ドラゴン遣いの集落と一番
親交のある町とも言われている。
天主から賜った宿泊免除用の札を見せると宿の従業員は二つ返事で部屋へ案内してくれた。
ストラスたちは荷物を一旦部屋に置き、カルンの家を目指すことにした。
カルンの家は町の真ん中程の位置にあるらしく、店の従業員の女に聞くと簡単な地図を描いてくれた。
本当に簡単すぎて不安になるほどだったが辿ってみるとわかりやすい目印だけが描かれたとても簡潔な地図だったのだ。
宿から遠くなかったのと、入り組んだ路地を通ったりしなかったのでさして迷う事もなくあっさりカルンの家にたどり着いた。
ストラスの家のように高級住宅地区ではなく、他の住人と同じくごくごく普通の民家がカルンの家だった。
エンケラドゥスが一歩前へ歩み出てその扉をノックする。
扉は静かに開いて家主が顔を出した。

「はい、どちらさま…エンケラドゥス?」

「久しいな、カルン。聞きたいことがあって尋ねた」

「これは珍しい客人……ストラス……」

「こ、こんにちは、カルン」

カルンは久しい同業者に表情を緩ませたのも束の間、ストラスの姿を視界にとらえると
一気に険悪な表情へ変える。
さし当りのない挨拶をしたつもりのストラスだったが明らかに悪意を向けられているのに
気が付いて尻込みしている。

「やっほー、カルン。ねえ、上がっていい?」

「そう言うのは家主が言うセリフだなフルフル。まあ上がれ」

「かあっこいい…」

フルフルのそばにいたシヴァがぽそりと呟いたのも最もで、
フロウルの間でもその容姿はずば抜けており、更紗の町では特に、
カルンは美形で有名だった。
ストラスたちのように動きやすそうなものではなく、ひらひらと風になびく服装に身を包み、
長い髪を一つに束ねてゆるく三つ編みしている。
雰囲気が少しセシリオの部下の男に似ていたが、彼よりは感情が豊かなようで
エンケラドゥスやフルフルの世間話に笑顔も浮かべている。
ただ、それがストラスにだけは一切ないのだった。

「砂糖はいくつ欲しい?」

「じゃあ二つ」

優しく尋ねられたシヴァは湯気の立つカップに加えられた砂糖を見つめ、
促されるままにお茶を飲むとほっと息を吐いた。
それはこのスォード山脈でよく飲まれているお茶でシヴァはなんだか懐かしさと
安堵感がこみ上げてくる。

「お前たちが来たのはドラゴンの事だろう?」

「そう。野盗の事なんか知らない?天主からの指令でね。あたしたちが調査することになってんの」

「野盗の闇市が掴めれば一番手っ取り早いんだが、分かったのは集落が焼かれて生き残りがいないって事だな…それからドラゴンの死骸から採取されたのは
角、牙、爪、瞳、それから鱗、内臓と皮膚を取られたのも……」

「あー、ちょっとストップ」

「なんだ」

淡々と説明していたのを制止したストラスにムッとしたが真っ青になっている少女の
腕を引っ張り、一緒に家を出たストラスの後姿を見つめてカルンは首を傾げる。
失敗した、と呟いたフルフルと、少し落ち込んだようなエンケラドゥスにカルンが説明を求めると二人はシヴァの事を打ち明けた。

「生き残り?あの状況で生き残りがいたのか?!」

「そんなにヒドイの?」

「今はもうここの人たちと協力してあらかた片付けたが、戦場だったぞ。
家も家畜も人も焼けていたし、焼け残った人間も、ドラゴンも酷い有様だった。あの中から逃げてきたのか?あの子が?」

カルンは信じられないと首を振る。
フルフルとエンケラドゥスはシヴァが平然と当時の状況を説明をしていたものだから
集落の惨劇を軽く捉えていたようだ。
そこまで酷いとは思わず、シヴァにあれこれ聞いたり、ここへ戻る事も承諾してしまったことにほんの少し後悔した。






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