まだ鼻をすすっているシヴァを部屋まで送る途中、残りの一人であるエンケラドゥスが
丁度武器庫から戻ってきた。
広い廊下とは言え、体の大きなエンケラドゥスが歩いているとどことなく圧迫感を感じる。
涙で睫をぬらしているシヴァを目に留めたエンケラドゥスは手に抱えている
自分用の装備を軽々しく持ち直した。

「何かあったのか」

「いや、ストラスとフルフルについて行くとダダをこねたら返り討ちにあっただけだ」

「駄々なんてこねてない…」

「どうしてまたついてくなどと言ったのだ?ドラゴン遣い」

セシリオはことの次第をかいつまんでエンケラドゥスに説明した。
その間、シヴァはどことなくバツの悪そうな顔をしていてエンケラドゥスから顔を隠すようにセシリオを壁にしている。
大体の事情を飲み込んだエンケラドゥスは、獣の声でふぅむと唸った。

「それで、ドラゴン遣いの娘よ、お前はちゃんとストラスに行きたい理由を説明したのか?」

「したもん。野盗を捕まえたいって言ったのに、くるなって言われたセクハラもされた」

「それは…私がかわりに謝る。すまん。しかし、お前は野盗を捕まえたかったのか?
それならばなぜ襲われたときに何もしなかった?」

「追い討ちかけるなよ、子供だぞ」

セシリオはこいつもか、と頭を抱えたくなった。
実際に頭を抱えてため息も吐いた。
シヴァはといえばきょとんとしていたがだんだんとエンケラドゥスの言った意味がわかったらしく、打ちのめされたような表情に変わっていく。
もしかしたら襲われた時のことを思い出しているのかもしれない。

「お前はドラゴン遣いなのに、家族が殺されるのを黙って見ていた。お前がイフナースに襲われたときはドラゴンを召喚していたのに、なぜ家族が殺される時はそれをしなかった?」

「だって、それは」

「恐怖で『それ』すらも忘れていたからだろう?ドラゴン遣いは元々戦闘種族ではないのは知っているが、身の危険を感じたときぐらいは自己防衛はしないのか?それともそんな暇もなく襲われたのかもしれない…、そのあたりは私もわからないがお前は
ドラゴンを召喚せず生き延びた」

「やめろって」

セシリオは自分の階級が上がるにつれて仲裁に入る仕事が多くなっていたので
その手のことには大抵自信があった。
よく周りからも揉め事があればセシリオ団長に任せておけば大丈夫などと言われてきたが
フロウルにはそれすらも通じないらしい。
ストラス、フルフルも頑固だったが、外見を除き、一番平和主義で温厚そうなエンケラドゥスまでもがこの有様である。
いや、三人の中では一番手厳しいかもしれない。
事実を突きつけられたシヴァはわなわなと震えていて、ショックのあまり涙も浮かべていない。

「それほどまでに怖い思いをしてようやく逃れられたのに、何故また危険な場所へ行こうとする?」

「なぜ、…?」

「ここにいて、私たちが野盗を捕まえて戻ってくれば事は済む。お前が苦しむ必要もない」

「なぜって、まだ、山に、ドラゴンがいるかもしれないからよ。殺されるのなんてすごく怖いの!私がよく知ってる。だから、他にもまた殺されそうになってるドラゴンがいたら可哀相だから、行くの。野盗だって憎いけど、怖いけど、私はドラゴン遣いだからもし生き延びているドラゴンがいたらここに避難してって伝えられる。それから、野盗がいたら自分から謝りたくなるくらい反省させるの!後悔するくらい反省させる…!」

「どうやって?」

思っていたよりもシヴァははっきりと答えを返すのでセシリオは先ほどまで
泣きじゃくっていた少女と同一人物か?と疑いそうになった。

「私のドラゴンで思い知らせてやる」

きっぱりと言い切ったシヴァの方法はとても暴力的で短絡的で実に子供っぽい上に
お世辞にも大人な対応と言えず、正当性が感じられない。
しかし、エンケラドゥスはそんな不穏な言い方の何が気に入ったのか、笑い声をあげて
笑い飛ばした。
笑われるつもりで答えたのではないとシヴァは憤慨したがエンケラドゥスは楽しそうだ。

「ははは、すまん。そうか、ドラゴンで思い知らせるか。ならば私も手伝おう」

「は?!ちょっとまて、フロウル!まさか連れて行くなんて言うんじゃないだろうな!?」

「連れて行く。この娘の言う通り、もし山にまだドラゴンがいるようならまた狙われる可能性もあるだろうし、ドラゴン遣いがいればここに誘導もできるだろう」

「危険すぎるだろ!子供だし…!」

「ドラゴン遣いの唯一の生き残りだからか」

「当たり前だ。そんなのは大前提だ」

「それではストラスとフルフルを懐柔する前にお前を説得しなければならないのか」

困ったな、とエンケラドゥスは呟いているが少しも困った素振りではなかった。
折角諦めかけようとしてくれていたシヴァも思いもよらないところから味方が現れたので
その気になりかけている。
どうしてこうもフロウルは我が道をゆく者たちばかりなのだろうと
セシリアは小さくため息を吐いたつもりだったがうっかり大きく息を吐いてしまった。






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