セシリオが自分の仕事に戻ったので、ストラスたちもドラゴン遣いの集落があった
スォード山脈へ向かうため準備を始めた。
さっきまで目も当てられないほどにだらけていたストラスも今では真面目にきびきびと山を登る準備をしている。
今回は『涙』を掘削するための旅ではなく、王から拝命した調査なのでいつもよりも資金に余裕がある上に各地の国が指定した宿舎を利用すれば無料で寝泊まりもできる。
野宿も多い掘削の旅とは違い、とても待遇の良いまるで漫遊旅行のようだ。
浮足立ちそうな好条件だが目的の野盗の追跡と調査は簡単な仕事ではなく、竜騎士が行うものなのだ。
しかし、竜騎士はとにかく城内の後始末に忙しく手が離せない状態らしので通常の騎士よりもドラゴンの生態に詳しいフロウルに白羽の矢が立ったのだ。
最悪の場合、その野盗と戦闘になることもあるため注意が必要というわけだ。

「スォード山脈か〜遠いな〜」

「お留守番します?」

「やだ行く。でもしばらく帰ってこられないね。デボラが泣くなこりゃ…」

「デボラ?なんで?」

「えッ、そりゃあんた…」

きょとんとしたストラスに驚いたのはフルフルの方だった。
獣人のエンケラドゥスが気が付いているかわからないが、コラベルでさえ気が付いているのだ。
ストラスもすっかり気が付いているものだとばかり思っていたフルフルは
どう答えていいものか迷った。
勝手にデボラの気持ちを明かしてしまってはデボラが憤怒の形相でフルフルを
死の果てまでも追い回すだろうし、おかしくごまかしてはストラスが気にするのではないかと思ったのだ。
しかしフルフルの考えすぎだったようで言葉を濁したフルフルをそれ以上は追及せずに
ストラスは準備の手元へ意識を戻した。
ほっと胸をなでおろしたフルフルは部屋の扉が開く音がしたので
自分の装備を集めて城の武器庫へ向かったエンケラドゥスが戻ってきたのだと思い
振り向いたがそこにいたのは毛で覆われた大きな獣人ではなく、小柄な女の子だった。

「あの」

「あれ、ドラゴン遣いの」

「スォード山脈に行くんですよね」 

「うん、君の集落を襲ったやつらを探しに行くの。待っててね。絶対に探し出してとっつかまえてやるから」

フルフルは不安そうに手を組んでいるシヴァへ優しく答えた。

「あの、私も連れて行って!」

「へ?」

「私も、どんなやつらが私の集落を襲ったのか、どうして襲ったのか知りたいの!」

「それは〜、捕まえてきたらで良いんじゃない?」

「私の集落を襲ったやつを私が捕まえたいの!」

シヴァはすごい剣幕でフルフルに詰め寄る。
準備をしていた手を止め、フルフルは少し困ったように天井を見上げた。
天井は自分の身長の三倍も四倍もあるくらいに高く、油断なく綺麗な細工が施されていて
これをしばらくは見られないのだと思うとちょっぴりさみしい気持ちになる。
どうして諦めさせればよいか考えていると真剣なまなざしで懇願している少女のあとを、
追いかけてきたのであろう、現れたセシリオもこれまたフルフルと同じような複雑そうな表情をしていた。

「お嬢ちゃん、我儘を言うんじゃないよ」

「故郷を奪ったやつらを探し出したいと思って何が悪いの!」

「気持ちはわかるけど、さっきも言っただろ?危ないんだって、お嬢さん」

「シヴァよ!ドラゴンだって遣えるし、武術だってちょっとはできるわ!」

「も〜ストラスも黙ってないでなんとか言ってよ〜!」

だんまりしたまま自分の荷物をまとめ終えていたストラスはサートを磨きながら
興味なさげに顔を上げた。
セシリオもなにか言ってくれと言いたげにストラスを見つめていたがシヴァはストラスを
視界にいれると何を閃いたらしくハッとしてすぐに指をさして勝ち誇ったような表情を作った。

「あんた!イフナースから助け出す時にどさくさに紛れて私にセクハラしたでしょう!」

「えっ」

「は?!」

「ああ…」

気づいていたか、と言う表情のストラスと、あの状況で何をしていたのか!?と
驚いているセシリオと、頭を抱えたフルフルは三様に反応して見せた。
特にセシリオとフルフルの反応はシヴァにとって嬉しいものだったらしくさらに笑みを深める。

「王様にいいつけられたくなかったら私を連れて行って!」

「はあ、じゃあ別に言いつけていいですよ」

「え!?」

シヴァは本当に王へ直訴しかけない勢いであったが、ストラスがあっさり言うとシヴァは
驚いて一瞬言葉を失った。

「この二人が言う通り本当に危ないんですよ?やめた方がいいと思います。
もしついてきたとしても僕また君にセクハラしますよ?それでも良いんですか?」

「よくないわよ、しないで!」

「じゃあ諦めてください」

「おかしいんじゃないの!変態!」

「あ〜すいません僕変態なので、君くらいの年ごろの女の子に性的魅力を感じるんです。
言っている意味わかりますか?」

ストラスは薄く笑みを浮かべてからわざとらしく大げさにシヴァの体を、
頭のてっぺんから足の先までじろじろと見つめる。
体中に鳥肌が立ち始めたシヴァは受けたことのない類の視線に無意識に後ずさった。
ここへ来るまでにいろんな大人と出会ったがどの大人も子ども扱いする人たちばかりで
ストラスのような人間は初めてだった。
あの時は変質者と口からでまかせに騒ぎ立てたが、ストラスは本当の変質者だったのだ。



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