あらかたの指示と報告を終えて本部へ戻ると空もすっかり暗くなっていた。
疲れからついついため息を吐いて空を見上げると昼間、イフナースが飛び去って行く姿が思い出される。
何がなにやらさっぱりわからない状況の結果報告をしなければならない事が
こんなにも億劫なのかと改めて思い知らされた。
同じく報告に同行してくれたドラゴン遣いの少女であるシヴァは
イフナースに指示された事すべてを話してくれた。
彼女は彼女なりにイフナースに言われた事に疑問を感じていたらしいが
子供の思考ではある程度の限度があったようだ。
しかもただの大人ではなく城の竜騎士の指示ともなれば無条件に信頼してしたがってしまうだろう。

「なんだってイフナースってやつはその罪人を逃がしたりしたんだろうね?」

「罪状は一応空き巣になっていましたけど、牢の鍵を溶かしたって言うのはちょっと…」

にわかには信じられないとコルベルが首を横に振る。
シヴァは膝を抱えてソファに座っており、その横にはフルフルが座っている。
つい最近城を騒がせていたスォード山脈のドラゴン遣いの集落が襲撃され、野生のドラゴンを扱う人間がいなくなってしまったと言う事件が
こんな形で結びつくとはだれも予想していなかった。
しかしドラゴン遣いの生き残りがいたというニュースは天主を大層安堵させた。
ラドチルパス国は竜騎士と言う『脅威』の上で軍事がなりたっている国である。
他の国にも竜騎士はいるがラドチルパス国内にいるドラゴン遣いはやはり世界から見ても特別であった。
そんなドラゴン遣いの集落が殲滅させられるなど国は大打撃をうけたにも等しい。
集落を襲った野盗がそれをわかっていて襲ったのかはやはり定かではないが、
シヴァと言う生き残りがいてくれただけでもラドチルパスの天主は胸をなでおろしたものだ。

「何かの術…ですかね?」

「そんなのは聞いた事がないな」

「ねえシヴァ、他に何か覚えていることはない?」

フルフルに尋ねられたシヴァは首を横に振った。
イフナースに言われて脱獄を手引きした事と、ドラゴンの涙を持ってこいと言われた事以外は
シヴァはよくわからなかった。
脱獄の手引きをしたシヴァは処刑場送りになると思っていたのだが、事態が事態だけに天主が特別に許したのだそうだ。
勿論、処刑人であるコラベルとデボラは怒って説教したがストラスがそれをなだめて今に至る。
天主への報告の次は処刑人からの聞き取りとあってあれから大人たちにこうして質問攻めにあっているシヴァは少し疲れた様子である。

「とりあえず私たちは処刑場に戻るわ」

「おーご苦労様」

デボラとコルベルは処刑場への報告と、後始末が色々あるからと処刑場へ戻った。
ドラゴン遣いの保護と言う名目で天主から一室を賜ったシヴァは自分がこれからどうしていいかわからず、呆けていた。
スォード山脈からここまで、着の身着のままのような状態で来たシヴァはなんだか急に疲れが押し寄せてきて眠気が襲ってくる。
こっくりこっくりと舟をこいでいるとフルフルの手が優しく額を包んだ。

「疲れたでしょ、眠ったら」

「う、ん…」

誰かに頭を撫でてもらうのが久しぶりで、シヴァはついつい安心して瞳を閉じる。
するとストンと眠りに落ちてしまい、それからは静かな寝息を立てるばかりだった。

「催眠術かけたみたい」

「面白いですね僕もやりたい」

「はいはい、この子ベッドに運ぼう」

「しかしこんな子供でもドラゴンを操れるのだな」

ストラスはフルフルに促されてシヴァを抱えてベッドに運び、優しくタオルをかけてやる。
ぽんぽんと肩をたたいてやってもシヴァは身じろぎせずに眠っていた。
エンケラドゥスは黒いドラゴンを思い浮かべながらポツリと漏らしたが、
それは誰もが感心するものであった。
ドラゴンには6種類いて、火風地水の属性のドラゴン、そして白竜と呼ばれる光を司ると言われるドラゴンと、黒竜と呼ばれる闇を司ると言われるドラゴンだ。
主に世界に分布しているのは火風地水の4属性だが白竜と黒竜は大変珍しく、
存在すら危うい伝説まがいの生き物だった。
しかしそんな珍種が小柄な少女の召喚によって現れ、従っていたのだ。
天主が罪に目を瞑り、シヴァを快く迎え入れたのはそれも一つの理由だった。

「じゃあ帰りますね」

「えっ!泊まっていかないの!?」

「僕お城嫌いなんです」

ストラスが心底嫌そうな顔をしたので嘘ではないだろうが、それよりもフルフルは
ストラスがこの目の前の少女を置いて自分から離れようとしていることの方が
信じられなかった。
あの少女好きと言う変わった性癖をもったストラスが。

「あんた部屋めちゃくちゃじゃない」

「寝るスペースくらいはありますよ」

「もう、田舎のおばーちゃんみたいなわがまま言ってないで今日は遅いし泊まれば?」

「調べ物をするなら城の図書館の方が情報が集まるのではないのか?」

「え?」

エンケラドゥスとすぐに否定しないストラスを交互に見渡すフルフルには
なんのことかさっぱりわからない。
暫くして眼鏡を押し上げたストラスはため息交じりに言った。

「…エンケラドゥスのその勘は野生のなんとかですか?」

「ストラスは案外顔に出やすいからすぐわかるぞ」

「え〜あたし分かんない、説明!」





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