「やだ、ガレル助けて!!」

シヴァが叫んだのと同時にストラスたちの目の前に魔法陣のようなものが現れた。
初めは小さかった陣から出てきたものに合わせるように次第に大きく広がっていく。
堅く頑丈そうな鼻づらから大きく開く口、目、顔、そして胴体が現れたところで耳をつんざく
鳴き声が響く。
陣から出てきたのは黒いドラゴンで威嚇するように大きく口をあけてまた鳴き声を上げた。
鳴き声を上げただけで地面と大気が揺れて立っていられない。
あたりの城壁や木々もミシミシと音を立てながら激しく揺れて、木陰で休んでいた鳥たちも大慌てで羽ばたいていく。

「ド、ドラゴン…!?」

「なにこれ…!?ドラゴン召喚って…」

「ドラゴン遣いか…!」

ドラゴンが現れた風圧に気おされながら腕で視界を確保するストラスたちは
少女を見つめる。
少女はイフナースの剣に怯えているがドラゴンには怯えていない。
この状況で一番脅威なはずのドラゴンを気にしていないのだ。
全身がようやく表れたドラゴンは腹を立てているらしく首を後ろへ引いて胸を張り、
勢いをつけて鋭い牙をもつ口でイフナースを襲う。
イフナースは身の危険を瞬時に感じ、シヴァを突き放して剣を構えてドラゴンの牙を防いだ。
頭に血が昇っているドラゴンは完全にイフナースを敵とみなしており、太い腕を振り回す。
ドラゴンが動くたびに地響きがな鳴り、いよいよ城の兵士たちが集まってきたが、
誰もが突然現れたドラゴンを見て動揺していた。
敵襲ではないのかと叫ぶ兵士もいたため、セシリオがいち早く彼らの統率を始める。
だが、セシリオも慌てる兵士をなだめつつも警戒をさせていたので万が一の事態を想定しているようだ。
イフナースもさすがに剣だけでは敵わないとわかっていたので自分のドラゴンを笛で呼び寄せる。
竜騎士はそれぞれに個別の笛を持っており、それをドラゴンが小さいころから使用して調教していた。
イフナースのドラゴンは笛の音を聞きつけると竜舎から飛び出し、イフナースのそばへ降り立つと喉を鳴らしながらイフナースの命令を待っている。
竜騎士の操るドラゴンはその竜騎士にしか懐かず、命令にも従わないのだ。
イフナースのドラゴンはシヴァが召喚したドラゴンよりも小柄だったが大気中の水分を
集めると口を開き、結晶化させた。
そして氷の塊となった水分はするどい槍のようになり黒いドラゴンへ吹き飛ばした。
氷の塊は黒いドラゴンの体に突き刺さり黒いドラゴンは痛みに悲鳴のような鳴き声を上げる。
イフナースから解放されたシヴァへ駆け寄ったストラスはシヴァをかばうようにして
状況を見守っていたがシヴァが攻撃されたドラゴンに駆け寄ろうとしたため、それを取り押さえた。

「ガレル…!」

「ちょっと危ないですって!」

「離してよ!ガレル…!お前!ガレルに何すんのよ!やめなさい!
私の言葉がわかるでしょ!わかるのに言うこと訊かないの!?」

「いやいや、そんなワンコじゃないんですから……」

じたばたと暴れる少女を取り押さえるのも一苦労だったが困ったことに
ストラスはそういうのは嫌いじゃなかった。
何せ暴れているのは可愛い顔の女の子だ。しかも少女だ。

(とっても幸せ)

ううん、と悦に浸っていると思いもよらない方向から異様な気配が飛んでくる。
何事かと思いそちらへ視線を移すとデボラが鬼の形相で睨んでいて、その横で
コルベルが何かを訴えているのか口をぱくぱくさせていた。
コルベルの助け舟を察知してほんの少しだけ体を少女から離すとデボラの形相もほんの少しだけおさまった。
つまりデボラはこの状況で何をしているのかと怒っているのだ。

(ちえ、いいとこなのに)

残念そうに口を尖らせたがそれもすぐに忘れてしまった。
シヴァが呼びかけたイフナースのドラゴンが黒いドラゴンへの攻撃をやめたのだ。
一番驚いていたのはイフナースだ。
何度呼びかけてもイフナースのドラゴンはどちらの命令を実行すればいいのか戸惑っているようで、
首を上げ下げしているかと思えば黒いドラゴンに襲いかかろうと威嚇をしてみたり、
踏みとどまってみたり。

「くそ…ドラゴン遣いか…!」

イフナースは小さく舌打ちし、歯噛みしていたが、黒いドラゴンへ攻撃するのをやめさせ、自分のドラゴンへまたがる。
イフナースのドラゴンも一度に複数の命令をされないで済むとわかると逃げるように自分の羽根を羽ばたかせて空へ浮かんだ。
黒いドラゴンは未だにイフナースへの威嚇をやめずに痛みに耐えながら首を振っていたが
シヴァが声を掛けると喉を鳴らしつつも次第に大人しくなっていく。
イフナースを乗せたドラゴンはそのまま空を飛びどこかへ行ってしまった。





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