騎士団本部を離れていくイフナースはその子供のことはわからないと言いつつも
まっすぐに城門まで寄り道もせずに向かった。
その間ストラスは勿論誰一人すれ違う者以外は、イフナースの後ろを歩いていたので
イフナースがどんな表情をしていたかはわからない。
門のそばまで来ると門番と一人の子供が立っている。
子供は門番の兵士と世間話でもしているのか人懐っこそうに笑っていた。
門番は現れたイフナースに気が付くと軽く手を振ったあと、そのあとに続く
そうそうたる面々に驚いて慌てて敬礼しなおす。
ストラスたちはお構いなく、と告げるとイフナースを訪ねてきた子供へ真っ先に近寄った。

「こんにちは」

「こ、んにちは…!?」

「あっ、君」

イフナースの後ろからぐいぐい現れる二人に子供は驚いて後ずさりする。
片方はドラゴンの涙を無心しに行ったフロウルだし、もう片方はなんだか見覚えのある大きな眼鏡をつけている。
シヴァは目を白黒させて動揺し、逃げようかと思ったが背後には門番が立っていた。
大人に囲まれて逃げ出せないとわかり、先頭をきっていたイフナースに助けを求めるように
視線を送ったが何か用かと切り出され、シヴァはいくらか落ち着きを取り戻せた。
声が震えてしまいそうな気がしたのでおなかのあたりで握り拳をさらに握りしめるようにした。

「あの、ドラゴンの涙が…なくて」

「ああ、それならもういいんだ」

「え?」

イフナースがにっこりと微笑んでシヴァの頭に手を置く。
いままで…とは言っても長い間会話をしたわけではないがイフナースがこうして
微笑んだり、優しく接してきた事は一度もなかった。
突然のことにまた動揺が広がったシヴァはなんと言っていいかわからず言葉を失う。
それからは視界がぐるぐるとまわって一体何が起こったのかわからなくなってしまった。
ただ、誰かがあざけるように笑う声と緊迫した女の叫び声が聞こえてきた。

「イフナース!」

「申し訳ありません、団長」

「ぜんっぜん申し訳ないってツラじゃないわよそれ!」

門番二人をあっさりと斬り捨て、横たわる体を足蹴にしたイフナースは
フルフルにそう噛みつかれたが涼しい顔をしている。
イフナースは門番へ攻撃しただけでなく、背後にいたフロウル三人、竜騎士団長のセシリオ、
そして処刑人のデボラとコルベルへも斬りかかったのだ。
不意を突かれたとは言え誰もが戦闘の心得があるものばかりである。
たった一人でこれだけの人数をたやすく攻撃するなど並みの実力ではない。
しかも左脇にはイフナースを訪ねた少女、シヴァを抱えている。

「その子返してもらえますかね?あなたのことは、まあ見逃してあげるんで」

「そのナリで見逃して『あげる』と?」

「そうです。その子置いてってください」

イフナースはストラスの言葉がとてもおかしかったらしく笑をこらえているが
シヴァを放す気はないようだ。
ここで人質を放せば一斉に集中攻撃をされるのは明白だ。
それがわかっているイフナースは自分の身が確実に安全だとわかるまでは
シヴァをどこまででも連れまわすだろう。

「えっ、なに…やだ!」

「それじゃあ手だけ置いてってやるよ。俺は人質としてこいつの体があればいいからな、
腕の一本や二本、どうってことはない」

イフナースはシヴァの腕に剣を当てる。
フルフルがサートを振り、大きくして飛びかかろうとした時、あたりでパリパリと音が鳴った。




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