聞いた住所をたどって行くとそのフロウルの家は王都の端の方にあって
街の喧騒などがかすかに聞こえる程度の場所だった。
中心部よりも緑が多く生えており、どこか田舎の風景を思わせるような家が
畑や川に囲まれてぽつりと立っている。
人気よりも動物の気配の方が多く感じられるそこを歩いて家のドアをノックした。
女の声で返事が返ってきて扉が開くと自分とそう歳も変わらないような少女がひょっこりと顔をだす。

「あら?いらっしゃい。これはまた…おつかい?」

「いえ、あの私、ドラゴンの涙が欲しくて」

少女はイフナースと同じ青い髪がぴょんぴょんと跳ねていて
チューブトップの布の面積が比較的少ない服装だったがその太ももには
フロウルである証のサートがぶら下がっていた。
一瞬、その少女が弟子かなにかかと思っていたのだが彼女がフロウル本人のようだ。

「ドラゴンの涙?」

「はい、その…」

「お医者さんにでも頼まれたかな?代金は持ってきてるのー?」

フロウルの少女は訝しむようにシヴァを眺めたがすぐに誰かのおつかいと勘違いしたのだろう。
近所の子供にするようにすこし優しく尋ねてくる。

「いえ、お金は無いんです…あの」

「…お父さんかお母さんが病気?」

「いえ、そう言うわけじゃ…」

「そうなの?どちらにしても、ドラゴンの涙はそうそうあげられるものじゃないからなあ…」

「そう、ですよね…」

案の定、高価なドラゴンの涙は譲ってもらえそうにない。
予想はしていたがあまりにもあっさり断られてしまったのでシヴァはすっかり肩を落とした。
自分もせめて、殺されたドラゴンの一部でも持っていればよかったのかもしれないと
さえ考えた。

「って言うかドラゴンの涙なんて薬でなければ何に使うの?」

「えっと、なんでもないです。ごめんなさい、ありがとうございました」

「えっ、ちょっと、君!」

シヴァは早口で礼をのべて引きとめようとするフロウルの言葉を振り切って走り去った。
きっとおかしな子供だと思われただろうし、それ以上
ドラゴンの涙を欲しがる理由を深く追及されては困るからだ。
静かな空気がやがてまた人の往来が激しい城下へ変わるとシヴァはため息を吐く。
麓へ降りてからこれまで思い通りに物事が進んだためしがない。
ようやく道筋に光がみえたかと思えばこうしてすぐに躓いてしまう。
だれにも頼れないし頼りたくない、子ども扱いをされたくない。
せめて事情を話してわかってくれる人物がいればと思うと鼻の奥が熱くなった。

(弱音吐いちゃだめだ…わたしがしっかりしないと…)

ドラゴンの涙は手に入れられなかったが、ドラゴンについての他の事なら
手土産になるかもしれない。
今のシヴァはもうそれしか手立てが残っておらず、それにすべてを賭けることにして、
断られる覚悟を決めて城にいるイフナースの元へ向かった。


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