シヴァは先生の引率ではしゃぐ能天気な子供たちとともに処刑場を出るとすぐさまあの
兵士の男を訪ねようかと城へ向かいかけたが名前を聞いていないことに気が付いた。
自分の間抜けさにほとほと腹が立ってほんの少しだけ泣きそうになったが慌てて頭を振る。
こんなところで泣いていたからと言ってあの兵士の男が現れるわけがないのだ。
それに同じような失敗は今まで何度だってしてきたのだから名前を聞き忘れるくらい
些細なことだ。
とりあえずあの兵士と出会った小道の屋台の間の路地へ行ってみればもしかしたらまた
会えるかもしれないと踏んだシヴァはまた大通りを抜けて小道へと急ぐ。
会えなかったとしても最終手段で城へ乗り込めばいいのだ。
当初の目的は王と会うことなのだから兵士の男も探せて一石二鳥である、が、
兵士の男がこんな子供の自分に頼み込むほどである。
何か理由があったのかもしれないとその最終手段を先に使うのはやめておいた。
屋台がある小道の活気は崩れておらず先ほど訪れた時と同じだった。
シヴァは路地を何度か行ったり来たりしてみたがそれらしき男は見当たらない。
諦めて今日とった宿へ戻ろうとした時、また後ろから声をかけられた。
あの男の声だ。

「首尾よくできたようだな」

「あ…うん、でもあの人まだ出ていないみたい」

「牢の鍵は開いたんだろう?それならいい」

「あの人どうしてあそこにいたの?」

「それはお前が知らなくてもいいことだ」

男は表情を固くし、冷たく言い放つ。
確かにですぎた物言いだったとシヴァも少し反省した。

「ね、ねえ本当に王様に会わせてくれるの?」

「ああ、だが王に謁見するのに手ぶらと言うわけにはいかないだろうな…」

「なにかお土産を持って行ったらいいの?王様はなにか…お菓子とか好き?」

「ドラゴンの涙」

「えっ」

「王はドラゴンの涙を所望している。もしお前が持ってこられたなら大層お喜びになって
お前の話も聞いてくれるだろうな」

シヴァはどきりとしたが青い髪の男はまたシヴァの返事を辛抱強く待っている。
それはとても高価なものだ、と言いたかったがシヴァはとっさに口をつぐんだ。

「わ、わかった。じゃあそれを持ってお城に行く。そうしたら会わせてくれる?」

「もちろんだ」

「ドラゴンの涙を手に入れたらまず…貴方を訪ねればいいわね?」

「イフナースだ」

名前を聞いてもいい?と言うと男はそう答えた。
今度はちゃんと名前も聞いたし、ドラゴンの涙を手に入れたその後のことも確認した。
ぬかりはない。

「わかった。すぐにもらってくる」

シヴァはイフナースと別れてすぐさまフロウルを探すことにした。
ドラゴンの涙は通常の市場には出回らない。
フロウルから直接取引するか、富裕層が利用する専門の宝石店で売られているが、
シヴァには富裕層と張り合うほどのお金を持っていないので直接フロウルを探し出して
ドラゴンの涙を譲ってもらおうと考えた。
ドラゴンの涙は貴重だがあの野盗たちがドラゴンから爪や牙を搾取していったのならば
もしかしたらここのフロウルにも加工を頼んでいるかもしれないと踏んだからだ。
フロウルは世界に点在しているがこの王都には永住しているフロウルがいると聞いた。
住所も優しそうな町民のおばさんから聞き出していたのでシヴァはまずそこへ向かった。



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