一刻も早く王に会いたい、その一心でシヴァはその足で処刑場へ向かった。
子供がこんなところをうろつくのは怪しまれてしまうのではないかと心配したが、
その日はたまたま近くの学校の子供たちが見学に来ていてそれに紛れることができた。
なんと幸運なのだろうと自分の運の良さに感心しつつ、
罪人たちが収容されている薄暗い牢へ向かう。
しかし、どの罪人が助けるべき罪人か、あの兵士の男から聞くのを忘れたシヴァは途方に暮れた。
もし本当に悪い罪人を逃がしてしまったら大変なことになってしまう。
案内する看守と、引率の先生の後をついていく子供たちの一番後ろを歩いていたシヴァはきょろきょろと落ち着きなく罪人たちを眺める。
それとも引き返してあの兵士にまた会って確かめるべきか?そう考えていると
ある一人の罪人に目が留まった。

「手引きする子供がいるとは言われたけど、こんな子供とは思わなかった」

「え?」

「さっき男に会っただろう?青い髪の」

他に見学している子供たちも何人かが罪人に話しかけていて、どうやらこの見学会は
そう言うものがウリらしい。
貴族や富裕層の暇つぶしの娯楽なのか、それとも処刑場と学校の間で子供たちと会話することで
罪人たちの罪の意識をより深く感じさせて更生させようとでもしているのかわからなかったがそれすらもシヴァには好都合だった。
引率の先生がいる上に看守が付いている為か、見学に来ている子供たちは普段よりも
横柄な態度で罪人たちをからかったりしていのが見える。
そんな中、その男は牢の中から静かにシヴァに話しかけてきた。
他の罪人とは違って体は細く、どちらかと言えば大人しそうな雰囲気の男だ。
まだ囚人服を着ていないところを見ると、はっきりと罪が確定していないようだ。
先を歩いて子供たちを案内している看守が、囚人服を着るのは処刑が決定した者だけだと
ついさっき教えてくれたばかりだった。
男はまるで今までの行動を見てきたかのような口ぶりでシヴァに話しかけるので
呪い師か何かだろうかと疑った。


「う、うん。貴方がえん罪の人…?どうして私ってわかったの?」

「男にお前の特徴を聞いてたし、挙動不審だったから」

「それで、私、どうしたらいいの?牢屋の鍵も持っていないし…」

「あんたが鍵穴に手をかざすだけでいい」

「それで開くの?」

男が頷いてみせるのでシヴァは恐る恐る男が言うように鍵穴に手を添える。
鉄の感触が掌に伝わってきたが特に変化するようなことも、鍵が開く音もしない。
どうしてこれが牢を開けることになるのかわからないでいるとシヴァの手の上から、
男が手を添えてきた。
びっくりして手を引きそうになったが男が集中しているのをみてとるとシヴァはなるべく
大人しくしていようと跳ね上がった心臓を落ち着けるために開いている右手を自分の胸に当てて待った。
すると不思議なことに鍵が開くどころか頑丈な鉄でできている牢の鍵穴がみるみる溶けていく。
これにはさすがに驚いて短く悲鳴を上げたが、鉄格子の間から男の腕が伸びてきて乱暴に口を塞がれた。
シヴァは怖くて泣きそうになったが男がそれに気が付いたのか表情を柔らかくし、シーっと口で言うのでシヴァは目を泳がせながらもこくこくと頷く。
ドロドロになって溶けていく鍵穴は腐ったのでも焼けたのでもなくそれはまるで違う物体になったようにボトリと地面に落ちた。

「ごめんごめん。騒がれたら大変だから。びっくりした?」

「ううん、大丈夫…」

本当はすごく驚いたのだがシヴァは子供だと馬鹿にされたくなくて首を横に振った。

「あとは帰っていいよ、あんたも危ないから早く逃げた方がいい」

「わ、わかった…それじゃあ」

男は溶けた鍵穴を満足そうに見つめたまますぐには牢の扉を開けようとしない。
シヴァと一緒に逃げてはシヴァに迷惑がかかると、気を使ってくれたのかと思い、
シヴァは頷いて軽く手を振り、すぐにあの子供たちの集団に紛れるため、小走りで牢屋の前を通り過ぎた。
その間、一度も振り返りはしなかったがその間も鉄格子の開く音はついに聞こえることはなかった。





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