望月さんに言われた通りにその付近を通る時は目的地へ強く意識を向けるのを続けたらいつの間にかその癖がついて、それきり細い路地も不思議な看板も表れなくなった。
それから私は近所のあのコンビニへも足を運ぶ機会がめっきり減っていた。
別に意識してるつもりはないのだけれど、どうにもそちらへ向かう用事がないし、バイト先の近くにも新しいコンビニが出来た事もあってそちらを利用するのが増えたのだ。
もちろん望月さんともそれ以来顔を合わせることがない。

(よく考えたらあの人と会ってから不思議な事が起こってたような…)

そう考えると不思議体験の原因がすべて望月さんのような気がしてならなくなり、
気さくに話しかけられていた危機感のない自分に寒気がする。
とは言え、望月さんが助けてくれた場面もあったわけで、
一概に彼が原因とも言い切れなかった。

いつものようにバイトを終えて家に帰る途中だった。
辺りが薄暗くなってきて街灯がともるかともらないかぐらいの頃、
彼は私の前に現れた。

「こんばんは」

「こんばんは」

「どうですか最近の調子は」

「え?あ、はい、あのへんな路地は出てこないです…」

「それはよかった。それじゃあそろそろ戻りませんか?」

「戻る?」

「貴方の体はもう十分治りました。あとは貴方が意識を取り戻して
ご家族を安心させる事ですよ」

「?なんの話ですか?」

私は彼が何を言っているのか理解できなかった。
もともと彼の話はどこか的を得ていないことが多かったのでそれも不思議ではなかったけれど、今回はさらに環をかけて不思議だった。
治る?戻る??

「貴方の話です。毎日心配されてますよ」

「えーと、よく意味がわからないんですけど」

「意味が分からないんじゃあなくて、忘れたいんでしょう?」

急に望月さんの声の雰囲気が変わった気がして私は無意識のうちに後ずさりしていた。
地面の小石がじゃりっと音を立てて靴の裏で擦れる。
理由もわからずに心臓がどきどきと音を立て始めて私は何かに怯えるように
両手を胸の前で合わせている。
まるで他人事のようにそう感じた瞬間、背中に何かにぶつかった感触があった。
驚いて振り向くとなんとも細身のマッチョな男の人が立っていた。
スキンヘッドで顏は…どうしてだかよく見えない。
目を細めても顏だけがぼやけてしまってわからないのだ。
雰囲気の変わった望月さんも怖かったけれど、私は顔の見えないスキンヘッドの男の人の方が数倍も怖くて体を緊張させる。
男は、それを見計らったように私めがけてその太くて強そうな腕を伸ばした。
私はとっさに目をつぶる。
掴まれる、と思ったが何も起こらずそっと瞑った目を開くと
望月さんがいつの間にか私の後ろから細い腕を伸ばして男の腕と丸い頭を押さえつけていた。
暫く力の均衡が続いていたけどやがて望月さんの方が圧し始め、
スキンヘッドの男の人は、うめき声をあげだした。
それが本当に不気味で私は、身震いして一部始終をただ見つめるしかできない。
望月さんは、あと一押しとばかりに男の腕を薙ぎ払い、今度は肩の鎖骨のあたりをつかむ。
そして頭と、肩を引きはがすようにしてまるで首の筋でも
切ってやろうと言わんばかりの勢いで力いっぱい互いを押しつけた。
勿論男は苦しそうに更にうめき声をあげた。
私は男が死んでしまうのではないのかと思い、たまらず望月さんに声を上げた。

「も、望月さんやめてください!!死んじゃいます!」

「大丈夫。もうすぐ終わるから」

「な、なに言ってるんですか…!?」

体の力のすべてを使っている風の望月さんがその様子に似合わない声で言うと、
やがて男が力なく地面に倒れこんだ。
ぴくぴくと痙攣しているところを見れば生きているだろうが
それでも危険な状態かなのかもしれないと思った私は望月さんに詰め寄った。

「し、んじゃうんですか…!?」

「大丈夫って言ったでしょう。これは人間じゃないから死んでも平気なんですよ。
って言うか、死なないんですけどね」








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