「ここってどこですか?」

「幸福堂ですよ、お嬢さん。さあ、座って座って。今暖かいお茶をお出ししますから」

そう言って古めかしいけれど豪華な装飾の椅子を牽いてくれたのは目の周りを包帯でぐるぐる巻きにした中学生くらいの少年だった。
少年は私を椅子へ座らせるとそそくさと店の奥へ引っ込んでいった。
いつのまに店の中へ入ったのだろう。
店内をきょろきょろと見渡すとオレンジ色に照らし出されていて少し薄暗い。
レトロなラジオからはくぐもったレコードの音楽が流れ、天井を見上げればきらきらと光るシャンデリア風の照明が揺れている。

「どうぞ、すいません。今マスターが買い出しに出かけていて」

「ええと…」

「大丈夫です。外で死神がうろついているみたいですけど我々がちゃんとお守りいたしますから」

「死神?」

「そうです。いたでしょう?白衣を着た。凶悪そうな」

「確かに死神なんですけど、悪い噂を流すの辞めてもらえませんかね。営業妨害ですよ」

いつそこに立っていたのかそもそも店の扉が開いた音だってしなかったのに
あのコンビニの店員が白衣ではなくてコンビニの制服のまま表れた。
私は驚いて思わずお茶をひっくり返しそうになったが包帯の少年が慌ててお茶を移動してくれたおかげでこぼれることはなかった。

「マスターが来ちゃうと面倒なので、出ましょう」

「ああ!だめですよ!俺がしかられるじゃないですか!折角のお客さん!」

「言っておきますけど、彼女はまだここにくるお客じゃないですよ。だから俺がここにいるんだ」

「そんなの、ちょんと切ってやれば、いいじゃあないですか」

少年はとても無邪気な声で言ったけどわたしは何のことかわからずに首を傾げる。
彼が指さした先には私の手首があって、私の手首にはなにか紐のようなものが巻き付けられていた。
いつの間にこんなもの巻き付けたのか記憶がさっぱりなかったがその紐はゆらゆらと宙に揺れてまるで風にそよいでいるように見える。
少年はシンプルなエプロンのポケットからおもむろにはさみを取り出すと私の手首に巻き付けてある紐へあてがった。
じゃき、と音を立てたはさみだけれどそこにはさっきまであった紐も、私の手首もなく少年はあれえと声を上げて首を傾げている。
私は暖かい手首の感触にふとそちらへ視線を向けた。

「だからお客じゃ無いって言ってるじゃないですか…」

「望月さんてば、営業妨害!」

「その台詞そっくりそのままお返しします」

「それじゃあわたしはまたお返ししようかしらね」

「ああー!マスター!おかえりなさい!」




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