背中が急にひやりとしたかと思うと振り返ったらまたあの不思議な看板が立っていた。
あの細い路地とその奥にある建物もはっきりと見える。
さっきぶつかりそうになった電柱がきれいに消えていて私は夢でもみているのではないかと何度か目を瞬かせた。

「行きますか?」

「えっ?いえ、あの…」

「行かない方が賢明だと思いますけど」

「う…あ、あの。アレってなんのお店…なんですか?」

「幸福堂です。でも幸福を取り扱っているわけではなくて、人の魂を取り扱ってます」

「…は?」

わたしさっきから聞き返してばっかりじゃないか?と思いながらも不思議な事を言うこの人からじっと目を離さずにいた。
コンビニの制服よりもこっちの白衣の方が似合うなあなんて私はまだ緊張感を持てずにそんなことを考えていたのだ。

「どうしますか?」

「なんかよくわからないので、行きません」

「そうですね。それがいい。これから俺、バイトなんですけど家まで送りましょうか」

「あ、でもすぐそこなので」

「まあ俺もすぐそこなんですけど」

そう言って店員さんは道の先を指さして歩き出す。
私はなんとなく慌ててそのあとについて行った。
ちらりと後ろを振り向くとまたあの細い路地は無くなっていて無機質な電信柱が立っていた。
そしてようやく気味が悪いと感じて寒気のする体をさすりながら私は家に戻った。
それじゃあと声をかけたら店員さんは、どうも、と小さく会釈をしてあのコンビニへと向かう。
私は、マンションの二階に向かい、自分の部屋までのろのろと歩いてベッドへ座り込んでからふと首を傾げた。
あの店員さんがまるでなんでも知っている風だったのが気になったのだ。

(大体普段着?で白衣ってそうそう着ないよね…??)

そもそも魂がどうのといっていた気がする。
なんだろう。商品名か何かだろうか?
脳裏に焼き付いて離れないあの細い路地と独特の雰囲気を放っていた建物をなんとか頭の中から追い出そうと、私は頭を振って立ち上がる。
そういえば鞄の中にパンが入っていたのだと思い出してそれをひっぱりだすと勢いよくかぶりついた。
食べている途中で喉が詰まりそうになったので急いで紅茶を作る。
作ると言ってもお湯を沸かしてカップにティーパックを入れてお湯を注ぐだけなのだけれど。
暖かい紅茶を一口、二口飲んで私はようやく体が緊張していた事に気がついた。
ふう、とため息を吐いて肩の力が抜けるとなんだかどっと疲れたような気がする。
パンを完食して紅茶もすべて飲み終えた私はすさまじい眠気に襲われた。
ふらふらと体が船をこいでついにはベッドへ体を預けるとそのまま夢の中へと引きずり込まれたのだった。






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