その恐ろしいモノは人の身長ほどの薄い布なのか、紙なのかわからない、
長方形のひらひらしたものに頭のように置かれているまん丸い三日月と
体と同じく、細い手にあたる、長方形のひらひらしたものをはためかせている。
ウヨウヨとあたりをうろつき、それは何体も漂っていて何かを探しているように見えた。
典之はそれに近づくことはとても恐ろしい事だと本能で察知していた。
近づくことはもちろん、気づかれてもいけない。
息を潜めてその場にいないように努めなければと体をこわばらせた。
気づけばその場にしゃがみ込み、体を抱くようにして震えていた。
顔を伏せているので辺りがどうなっているかわからないが、
不意に聞きなれた声が耳に入り典之は勢いよく顔を上げた。

「典之!」

「朝顔」

朝顔が本気で怒っている顔をしている。
そして乱暴に腕をつかんで図書館でしたように、また典之を無理やり立たせた。

「何してんだよ、だから外出ろって言ったろ!」

「朝顔、怖い」

「だから、外出ろって言ってんだよ」

「いやだ、怖い」

「なんで怖いんだよ?」

辺りにはまだあのよくわからないひらひらしたものがいるのに、
怖くて怖くて堪らないのに朝顔は典之を外へ連れ出そうとする。
そしてその恐怖の理由を聞かれて典之はうまく答えることができなかった。
どうして怖いのだろう。
こんなにも近づきたくないのに、その理由が思い浮かばない。
朝顔がさっきから声を荒げているのにその怖いモノは二人に気付かないようで
辺りをただ漂っているだけだ。

「とにかく、出たくない」

「ダメだ。出ろ!」

「大体、お前なんだよ!朝顔なんて、俺は知らない!」

典之は何かがぷつりと切れたように癇癪を起した。
細い腕で朝顔を押しのけようとしたが朝顔はすこしよろけただけで
典之の腕を放そうとはしなかった。
ひやりとした視線を向ける朝顔はいつもとは違う、低く静かな声でゆっくりと
言い聞かせるように言った。

「お前は知らなくていいんだよべつに。とにかく出ろ」

「やだ!」

典之が首を振るとあたりに漂っていたモノが突然バサバサと音を立てて
二人のまわりに集まってきた。
典之は悲鳴にならない声を上げたがガタガタと震える事しかできない。
いつもなら丸くなって必死に耐えるしかなかったが今は違う。
朝顔がしっかりと典之を抱き寄せて集まってくる怖いモノを睨みつけている。

「典之、ちゃんと出ろ。迎えが行くから。出ろよ」

「迎え?」

恐怖で震える歯がかみ合わずカチカチとなる。
舌を噛まないようにするのが精いっぱいの典之は確かめるように聞き返した。




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