「望月先生」

「あ、おはようございます」

「あの」

「抜け出せてよかったですね」

その言葉で私は今まで体験してきたあの不思議な出来事が
ただの夢ではないことを悟った。
悟ったと言うかそのことを確かめる為にわざわざ中庭まで望月さんを追いかけて来たわけで、確信を得たと言った方が正しいかもしれない。

「どこまでがほんとの事なんですか?」

「全部本当の事です。医者だっていうのはまあ、見ての通り。
コンビニの店員はあちらの世界…あなたがいたあの世界ね。
そこではコンビニの店員なんです。で、あの幸福堂も本当にある。
それでなければ俺はあそこにいないですから」

「現実の世界なんですか?」

「現実とは少し違うけどまあほとんどそのようなものです」

「あの、もちづきさ、先生がやっつけた男の人は?」

「貴方の怖いものが形になったもの、ですかね…」

「あー…なんかわかるような…」

私はあの時のことを思い出して目を細めると望月さんが柔らかく笑うのがわかった。
表情は見ていないけれどなんとなく雰囲気がそんな感じがしてくる。
あのスキンヘッドの男が現れた途端とてつもない恐怖が襲ってきて
心の底から助けてほしいと思った私を助けてくれた望月さん。
少し怖かったけど本当のことを言うとちょっとだけかっこよくてどきどきしたのは…
言わないでおこう。恥ずかしいし。

「他に私みたいな人がいる度にあんなことしてたりとかするんですか?」

「まあ、頼まれたときはするかも…基本的にはあんまり関わりたくないのでやらないですけど」

「私も誰かに頼まれたんですか?そういえば幸福堂にいたとき部長か課長?の命令だって…」

「頼まれてません。あれはまあ…その場しのぎの言葉と言うか。貴方の事が気になったのでやっただけです」

「そうですか」

「そうです」

とにかく私は望月さんの気まぐれでどうやら助かったみたいで
そう考えると少し寒気がしてきたような気もしないでもなかったけれど
こうしてまた両親と一緒にいられるし望月さんと再会(?)を果たすことができて本当によかった。
そこで思い出した私はあわてて望月さんに向き直る。

「あっ、このたびはありがとうございました。ご迷惑をおかけしましたっ」

「いいえ、好きでやったので」

「あっ、はいありがとうございます!」

「……」

「……?」

中庭のベンチに座っていたので私たちは隣り合って座っている状態だった。
そして足を組みながら組んだ足をゆらゆらと揺らしながら、その足の上で頬杖を付きながら話していた望月さんは、私が二度目のお礼を言ったと同時に頭を抱えて黙り込む。
そうしていたかと思えば組んでいた足を外して考え込むようにして地面を見つめ始めた。

「先生?」

「……携帯番号とか渡した方が通じますか?」

「えっ」


私とてそれほど鈍感ではない。
いままでの話の意味をこの言葉一つで理解して、「やっぱり歳離れすぎてると犯罪ですよね〜」なんて一人呟く望月さんを穴が開くほど見つめるしかできなかった。

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