思い通りにいかないんです。
ああ、先生ってばどうしてわたしが先輩に「自主練シュート100本!」という鬼畜課題を言い渡されている時に限って用事を押し付けるのだろう!というよりむしろ、どうしてこんな無理難題をいただいてしまった日が日直なんだろうか。クラスのみんなのノートを抱えて、職員室までダッシュ。担任に押し付けて、体育館までダッシュ。スカートからはみ出したバスパンがダサかろうとなんだろうと、サボったのがばれれば、公開処刑なのだ。

(よかった!空いてる!)

昼休みを5分オーバーしてしまったけれど、向こう側のハーフコートはがらりと空いていた。体育倉庫の中の左側のボールかごからいつもの六号球を取り出す。ハーフコートを走り回る、見覚えのある男の子3人を通り過ぎて、前回予想通りノルマを達成できなかったゴールと向き合う。今日は流川くんいないみたい(前回流川くんが体育館にやってきた時間はもうとうに過ぎている)。ラッキーだ。シュート練一本目はいつもこの位置、右45度。これ以上ないくらいの、気持ちいいネットを擦る音が響いた。笑みが漏れる。今日はいい感じだ。


「一緒に使わせろぃ」

36本目のシュートが決まった時、声を掛けられた。バスケに集中していたのが、プツンと切れる。振り返って、ドキンとした。どうして。まだあと64本もあるのに。そういえば、前はあと36本のところで彼が来たような気がする。なんなんだ。36という数字は呪われているのだろうか。

「あ、流川くん……ドーゾ」
「サンキュ」

だむだむ、しゅーと、スパン。どうしてこの人はこうも簡単に、わたしが集中力を最大まで引き上げてやっとできることをやってのけてしまうのだろう。もちろん、経験の差とか、歴然なんだけれど。それにしても、本当にこの人はなんで来たんだろう。こないだより10分も遅れてきてるじゃない!日直で遅れた、空いててよかった。なによ、流川くんエスパーなの!?っていうか空いてないよ……私が先客でしょ、明らかに……なんて言えるはずないけど。

「打たねーの」
「えっ、あ、打ち……マス」

だむだむ、しゅーと、ガン、だむ、だむ。リングに弾かれて、落ちる。ああもう、どうしてこんなに、体が言うことを聞かなくなってしまうんだろう。ボールを拾って、失敗失敗、と苦し紛れに呟いた。流川くんがまたシュートを決める。わたしは落とす。デジャヴである。

「さっきまでは、よかったのにな」
「へ?」

流川くんが、大きくボールを突きながら呟いた。わたしが顔を挙げて、少し遅れて流川くんも顔を上げる。ぎろり、と鋭い視線が絡まって、またどきん、と心臓が跳ねた。流川くんは、ドリブルをやめて、指先の上で地球儀のように器用にくるくるとまわし始めた。

「なんか急に、力入りすぎ」
「わ、わたし?」
「どあほう、オメーしかおらん」

ぱしん、と音を立てて、まわしていたボールをキャッチ。流川くんはふわり、とボールを放った。また、レールでも敷かれていたかのように、ボールはリングに吸い込まれる。何度見ても、完璧だった。

「さっきまでって?」
「俺が体育館来たとき、前より上手いと思った」
「み、見てたの!?」
「見えた」

顔中に血液が押し寄せてくるようで、寒さに冷えた手で頬を覆った。そりゃあ、前だって流川くんの前で変に緊張したんだし、今だってそうだし、流川くんが来るまでは確かにリラックスしてたかもだけど!だから、別に上手くなったわけじゃなくて、緊張してないだけで、ちょっとマシだっただけで。頭の中にいろんな考えがぐるぐると回ってくる。それでも当然、口に出しては言えないわけで。返す言葉が思いつかなくて、苦し紛れに「上手くないよ」と答えた。そんなこと、流川くんはわかってるというのに。

「力抜け、特に肩」
「それができたらさ」
「?聞こえねー」
「ううん、なんでもない。ありがとう」

だむだむ、ボールをつく。ああ、どうしよう。流川くんがこっち見てる。肩の力抜かなくちゃ。抜かなくちゃいけない。ボールを持った。投げた。外れた。「チガウ」そんな流川くんの声がする。わかってるよ、もう。あなたのせいなんだから。わたしの肩には力が入っていた。はあ。




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