天にも昇る気持ちとは、きっと、まさに、このことだろう。部活用のスポーツタオルを首にかける。口元が緩むのが抑えられなかった。こんなだらしない顔を見られたら、1,2年どもにどう思われるか堪ったもんじゃない。それでも、あふれ出る感情を抑えられなくて、緩む口元を手で隠すのが精一杯だった。
歓喜の木曜日
「ありがとうござっした!!」
大きな礼の声、それに続く重たい引き扉と南京錠の閉まる音。渡り廊下の屋根を土砂降りの雨が叩き、トタンのそれは、鬱陶しいほどの音を立てていた。それでも心は晴れやかで、それは、月曜日なんか比じゃないほどに快晴も快晴、雲一つない青空だった。
「三井!なんだ今日お前、スリーの確率すごかったじゃないか!」
心が晴れやかな理由は、木暮の言ったようなことでも、
「ほんと、今日の三井さんキレッキレ!流川のドライブもカットしてたし」
安田の言ったようなことでも、
「なんせ今日の5対5の得点王でしたからね!」
マネージャーの言ったようなことでもなかった。
全部心が快晴だからできたこと、花見に海水浴に紅葉狩りみたいなもんだと思った。
「まーな!調子を取り戻した三井寿はこんなもんだぜ」
着替えを済ませて昇降口へ。そこには畳んだままの傘を持って、外へ出ようとしない桜木と宮城の姿があった。声をかけると、2人はビクッと身を震わせ、ぎこちなく振り返った。
「お、おぅミッチー……その、なんだ、ワザとじゃないよ」
「スマン三井さん!花道が二刀流とかって急に……」
「あー!りょーちん!俺を売る気かあ!」
「うるせー花道!てめーも謝れ!!」
すんません、と花道にしては珍しく丁寧な言葉遣いとともに、見覚えのある黒い傘、もとい、無残にも折れた寿じるしの黒い傘が差しだされた。そして、状況を理解。いつものチャンバラに俺の傘も参戦。そして桜木のバカが破壊。どうしたものか、上機嫌な俺は怒る気にはなれなかった。
「み、ミッチー?」
「ん?ああ、まあ、仕方ねーな。濡れて帰るか」
「み、ミッチー!?」
「三井サン!?」
いつもの俺なら怒ってる。怒ってるどころかブチ切れだ。だから、こいつらが驚くのも無理はないと思うし、俺だってそれなりにびっくりしてる、自分に。怒ったところで気分が悪くなるだけ。もったいない。なんて大人な俺、三井。眉間に深く、深く皺を作った桜木が、おそるおそる口を開いた。
「君は、本当にミッチーなのか?お、俺の傘、使う?」
「何言ってんだよお前。お前こそ本当に桜木か?人に気を使うなんて。いいから、ほんと気にすんな」
顔を見合わせて、ぱちくり。そんな宮城桜木コンビに別れを告げて、帰り道を走った。濡れた制服は重く重くなるけど、驚くほどに軽やかに走って帰った。