rainy

二度あることは三度ある。なんてきっときっときっと大昔から言われているというのに私ときたらほんとバカ。朝日がいくらまぶしくても、小鳥が元気よく鳴きあっていても、降るときは降る。それが梅雨だというのに私ときたら。

「年に一度だけだって腹をくくって濡れて帰ったんだよ、月曜日は。なのにそんな。もうあんな惨めな思いしたくないよー!」
「いや、こればっかりはアンタが悪いよ。過ちを反省しなさい」
「ひどっ!友達なのに!」
「さーて、委員会にでも行きますかな」
「ちょ、ちょっとー!」

非情!鬼畜!暴君!そんな心の声は全て、ま、わたしが悪いんだけどね、で片付けられてしまった。ほんの少し寝坊して、朝のニュースに目もくれず家を出た。明るい空、小鳥のさえずり、そのおかげで梅雨なんて言葉は脳内からきれいさっぱり消えていた。そして、今日は木曜日。委員会の日。青空クラブもとい帰宅部で、かつ新学期早々のホームルームで気配を絶ち委員会所属を免れた私は教室にひとり、ぽつん。デジャヴである。

「あれ、雨野……さん」
「え、あ、三井くん」

開け放たれた教室のドアの向こうには、半袖半ズボンの三井くんの姿があった。視界の端に見える時計は4時少し過ぎ。そうか、部活の時間。

「どうしたの?部活は?」
「えっ、俺バスケ部。部費置いてきちゃって、部活後っつってもマネージャーがうるさくて……お、あったあった」

三井くんの話は支離滅裂で、ほとんど状況がつかめなかった。最近湘北開校以来の大健闘なんだから、バスケ部だってことくらい知ってるし。律儀にも『部費¥1,500-、三井』と書き添えられた茶封筒を机の中から引っ張り出した三井くんを見て初めて、なんとなく話が読めた。それをマネージャーさんに持って来いと言われたのかな。よほど急いでいるのか、三井くんとは目が合わない。

「雨野さんは?帰らねえの?」
「うん、できればそうしたいんだけど……傘忘れて」
「えっ、また!?」
「えっ、なんで知ってるの!?」

三井くんと、目が合った。いつもちょっと目つきの悪い彼の眼は、大きく大きく見開かれて、少しだけ可愛いと思う。三井くんはいつの間にか斜め下を向いて、聞いたっつーか、聞こえたっつーか……とぼそぼそ呟いた。それから、あっ!と大きな声を出して、さっき部費を引っ張り出したばかりの机に、もう一度左手を突っ込んだ。

「これ、使う?」

机から出てきた左手は、藍色の折り畳み傘を掴んでいた。もう、神かと思った。

「いいの!?あ、でも三井くんのは?」
「傘たてのとこに置いてあるから。これ、予備。いいから、使えって」
「ありがとう!ほんと助かった!」
「ん、よかった」

三井くんはニカ、と笑った。うん、にっこりじゃなくて、ニカ、と。スポーツマンがモテるのは、こういうところのせいだ。三井くん、元ヤンだけど。

「あ、やべ。そろそろ行くわ。赤木に怒られる」
「あ、部活中か!引き留めてごめん」
「いやいや、大丈夫。じゃあごめん、俺行くわ。ソレ、明日適当に持ってきて」
「うん!ありがとう!」

手ぶらで来た三井くんは、部費をつかんで、教室を出ようとした。公式戦前だもんね。……あっ!

「三井くん!」

小走りの三井くんを呼び止めた。急ブレーキ、回れ右。三井くんは首をかしげた。

「試合、がんばってね!」

ニカ、と笑顔が届いた。



 交差する木曜日


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