マリッジ! [ 31/38 ]
「おい、新郎新婦〜。なんかあんだろ、ヒトコトみたいなやつよォ」
越野のヤジに、貸し切りの小さなレストランがどよめいた。綺麗に盛り付けられた、色とりどりのオードブルには似つかわしくないむさ苦しい男たちが大半。彼らの視線の先には、シャツの裾をだらしなく出した、スーツ姿の男と、シンプルな紺のパーティードレスを身にまとった女が、並んで座っていた。
「ええー、また言うの?披露宴でも言ったじゃないか〜」
仙道の至極めんどうくさそうな一言に、コクコクと花子が頷いた。途端にレストランに大ブーイングが響く。お酒にゆるんだ男たちの声は、必要以上に大きかった。
「ふざけんなよォ。こっちは冷やかしに来てんだぞォー!ネタ提供せい!」
「越野、冷やかしに、って自分で言っちゃうかね」
やれやれ、と肩をすくめる仙道に、一同ムッとする。文句の声が上がる中、響いたのは池上の大きな声だった。
「キース、キース」
「池上サン!最高っすね!そのへんオフェンシブなんだから!キース!キース!」
「ええっ!?ちょ、ちょっと池上さん!越野くん!ああっ!魚住さんまで!!」
大きくなるキスコールに、真っ赤な顔であわてる花子と対照的に、仙道は「お」と、明るい声を漏らした。花子の方を見てにこりと笑うと、すぅっと息を吸い込んだ。
「キース、キース」
「ちょ、彰くんまで何言ってんの!?」
「ん?してくれるんじゃないの?ほれ、キース」
「ば、バカ!しないから!……彦一うるさい!要チェックじゃないってば!」
なりやまないキスコール。はやし立てる下品な歓声と手拍子。明るい笑い声。ひとりだけ深刻な表情で慌てる花子の薬指が、綺羅莉と光った。