肩を並べるまで、待ってて [ 32/38 ]

足の裏から響くドリブルの振動。甲高いスキール音。ネットを、ボールが擦る音。
お手本通り、コンピュータで計算されたかのような弧を描いて、ボールがネットを通過した。5本連続だった。0度、45度、90度、どれもお手本通り。

「腹立つなあ」
「相手がいないんだ、入れて当然っ」

そういって放たれたボールは、リングにはじかれる。――ざまぁ。――うるせぇ。

「ンなこと言ってっと、教えてやらねぇぞ」
「ああっ!嘘嘘!すいません!!」
「よろし。ホレ、打ってみ」

右45度。スリーポイントラインに立った。入らない、わけじゃない。かといって確率が高いわけでもない。身長が低いわたしが、どうしても欲しい技術だった。
彼とは違う構え。彼とは違うボールのサイズ。彼とは違う、結果。

「あー、惜しい」
「惜しかねーよ。落ちてあの位置でバウンドしちゃあ、リバウンドとれねぇだろ」
「おお、なるほど」
「フォロースルー、脇、膝、この3つが駄目だ」
「ちょっと寿、ツーハンで打って」
「え、マジかよ。もう5年は片手なんだけど」

わたしと同じ構え。ボールのサイズは違うけれど、両手でボールを構える寿は、なんだか滑稽で。

「え、ダサ、爆笑」
「お前が打てって言ったんだろ!打たねえぞ!」
「入る自信無いの?三井クンなのに?」
「ほんと生意気な奴」

そして、放たれたボールは、わたしのとは違う結果。ここが違いますから、と寿は腕を叩いた。

「膝曲げて、脇締めて、フォロースルー」
「おいお前、無視すんなよ」
「ちょっとうるさい。気が散るから!」

そうして放たれたボールは、リングにあたって真上に上がる。そのまま空を切って床に跳ねた。

「ああ、惜しい」
「そうだな、惜しいな」
「何が悪かった?」
「うーん、練習量?」
「……ドヤ顔すんな」

ピシリ、とデコピン。いてェ、と寿。そして、ガラリ、と開く体育館の扉とあいさつの大きな声。

「あー、おしまいかー。そんじゃわたし帰るわ」
「んだよ、練習見てきゃあいいのに」
「練習量が、足りませんから」
「ハハッ、素直なヤツ」
「じゃ、ありがと寿」

バッシュを脱いで、6号球を抱える。すれ違うバスケ部員たちに軽いあいさつをして扉を出ようとすると、大きな声に体育館の空気が揺れた。

「花子!頑張れ!」

振り返って、どきん、と高鳴る。一呼吸おいてから、にこりと大きく手を振った。
意地っ張りな性格に、好きになるのはスリーポイントシューターになってからだぞ、と注意されたような気がした。









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