共同逃亡 [ 35/38 ]

授業が無くなるのは万々歳だ。でも、やりたくないことを強要するのはどうかと思う。強要ってのはアレだ。脅しみてぇなもんだろう。それをなんで学校側が促してんのかわからねぇ。不良やめてバスケに打ち込んだ途端に態度の変わったクラスメイト。悪い気はしねぇ、しねぇけどよ。「ハイ、これ三井くんの。あの板の色塗ってほしいの。どんなふうに塗るかは見たらわかると思うし、お願い、ね?」そう言って目の前に差し出されるハケ。これで色を塗れ、と。興味のねぇクラス企画のために、この俺に板に色を塗れ、と。そうおっしゃった、張り切っている女子は自分の持ち場へと軽い足取りで戻っていった。なんで俺が、と怒鳴るのを堪えて、重い足取りで例の板へと向かう。

「あ、三井くん。手伝ってくれるの?」
「へ、あ、山田さん」

いや、塗れって言われたんだよ。喉まで出かかったそんなセリフを飲み込んで頷いた。な ん で お れ が 。少し横にずれた山田さんの隣に腰を下ろし、因縁の板と対峙する。目に飛び込んできた鉛筆書きの「しろ」の文字。うるせーな。塗れってか。板のくせに生意気な。

「これ、色塗ったらいいんだよな?」
「あ、うん。絵具ここにあるから……」
「オッケー。ちゃっちゃ終わらせようぜ」
「うん。助かるよ。一人だと全然進まなくてさ」

そう言って山田さんは板に白色を乗せていく。少々の会話はするけど別段仲が良いわけではない、俺の中ではふわふわした存在の女の子だった。まぁ、クラスの女子なんてだいたいがそんな感じだったんだけど。

「これ、なんに使うんだ?」
「ふふ、三井くん、ほんと何も聞いてないんだね」
「え、あ、スマン……」
「これ看板にするの。クラス喫茶の」
「マジかよ、看板でけぇな」
「そうだよねー。何もこんなおっきい板じゃなくても、ねぇ」

ぺたぺたと広がる白。他愛なさすぎる会話。自然とでるアクビ。あーバスケしてぇなー。ボールさわりてぇ。シュートうちてぇ。この際ハーフコートでもなんでもいい。ボールとリングが欲しい。

「あっ!三井くん、そこ文字書くから空けといて!」
「んあ?あー、そうかめんどくせぇな」
「ご、ごめん」
「え、あ!いや、こっちこそスマン」

文化祭楽しくねぇよー。バスケしてぇよー。絵具つまらねぇよー。山田さんビビっちまったよー。バスケしてぇよー。アクビを噛み殺して、再び白い世界に向き直る。文化祭つまらねぇよー。

「あ、あの三井くん?」
「え?」
「バスケ、したいの?」
「あ」

白文字で書かれた3つの文字。ば す け 。わり、と謝って文字の上から白い絵具を塗りたくる。ちくしょー、なんだってこんなこと。そんなことを考えていると、聞こえてきた笑い声。

「山田さん?なんだよ?」
「え、いやだって、三井くん顔にバスケしたいって描いてあるんだもん」
「……ゴメン、すぐやるわ。早く終わらせて」
「ははっ、いいよいいよ。バスケしてきなよ」

え、でもさ。いいから、あと私がやっとくし。……いいの?いいよ?

「最後のシーズンでしょ?部活」
「まぁ、そうだけど、文化祭も最後だろ?」
「え!?文化祭やりたいの?三井くんが?」
「え、あ、イヤ、それは……」
「ははっ、ほらヤッパリ。バスケの方が大事でしょ?」

まぁ、そうだけど……ホントにいいのか?もちろん……あ!

「そのかわりさ、試合日程教えてよ」
「見にくんのか?」
「え、ダメ?」
「いやいや!全然!大歓迎!っていうか……」
「ホントに?やったぁ。応援するよ」
「サンキュ、じゃあ、俺……」
「うん!いってらっしゃい」

少し罪悪感を覚えつつも、心の中のガッツポーズとともにスポーツバッグを担ぎ、教室を出る。ちらりと山田さんのほうを見ると、気が付いた彼女がぱたぱたと走ってきた。

「明日も逃げ道作ってあげよっか」
「まじで?」
「マジマジ」
「すげぇ嬉しいわ。サンキューな」
「うん、だから自主練がんばれ!」

ガッツポーズを作った彼女にを真似して、ふざけたガッツポーズを返す。笑った彼女に、心が温かくなった。








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