ぼくごのみ [ 2/38 ]

初詣がメインなのか、屋台がメインなのか。そんなことを考えながら歩いていた俺の目に飛び込んできたのは、赤い着物にオレンジ色のショールを羽織ったポニーテールの女の子がりんご飴を片手に弟とみられる小さな男の子の手を引いている光景だった。あえて言おう、可愛いと!
そう、あえて、なのである。仮にも自分は今、ガールフレンドと並んで参道を歩いているのである。直球で他人に可愛いなんて、一応、言えない身なのである。

「藤真あー、焼きそば食べたい」

着物、りんご飴、ポニーテール、可愛いじゃないか!あえるもなにも、やっぱり可愛いものは可愛い!
それなのになんですかこの隣の彼女は。着ぶくれ、焼きそば、ショートヘア。程遠いんですけどォ!俺、こんなの望んでないんですけどォ!

「ねえ、藤真あ、聞いてるの?」
「りんご飴はどうだ」
「何言ってんの今近くにないけど」

ガッデム!そうだ。今俺たちを取り巻く屋台は、焼きそばを筆頭にたこ焼きイカ焼きフランクフルトである。どれもこれもギトギトである。そこに可愛いはなかった。フランクフルトはすこしそそるなんて思ったのは仕方ないということにしてほしい。

「はいはい、焼きそばね」
「えーなんでそんな乗り気じゃないの。嫌いだっけ?」
「いーや、大好きだけど。ソースでギトギトで腹もちもよくてホント美味いよな」
「美味い!実に美味だ!」

そんなガッツポーズを見せる彼女を横目に、人の波をかき分けて焼きそばのおっさんと対峙する。「いいねぇ、青春だねェ!微笑ましい2人にサービスしちゃおうかな!」いいからりんご飴作れよおっさん。

「やったねー。もぐ、良いおじさんだったねえ、もぐ、焼きそば大盛りだねえ」
「そうだな」
「藤真あ、食べる?」
「おう」

もぐもぐ。もちろん、美味しい。本当に美味しい。のだが。
ずんずんと歩みを進める俺の目に「りんご飴」の文字が見えてくる。くそう、りんご飴のタイミングが違うんだよ。くそう。「藤真あ、りんご飴あるよー、買う?」。知ってるよ、痛いほど見えてるよ俺はそれをお前に食べてほしくてだな。って、え?

「ねえ、藤真あ、」
「買う!買おうぜ!よっしゃ」
「えー、そんなに?ちょっと待って、これ捨ててくる。屋台にいてね」
「オッケー!超オッケー!」

屋台にはおじいさんがいた。300円払って、一番大きいやつを手に取る。よし、これで、俺の彼女も、あんな感じに!

「花子ー!こっちこっち!」
「早、もう買えたの。よかったねえ」
「ほれ、」
「え?」
「だから、食えよ、りんご飴」
「えー、いいよぉ。あんま好きじゃないもん。気持ちだけ受け取るよ、ありがとう藤真」
「な、」

なんだってー!
膝から崩れ落ちたい気分だった。なんとか堪えて、平静を保ってりんご飴を舐める。2口で飽きた。全然りんごに到達しねえし。手もべたべただし。隣のこいつはソースで口元べたべただし。唐揚げに向かって猛ダッシュする花子にため息が漏れる。なんで俺、惚れたんだろう。俺にはきっとりんご飴女子の方が似合うと思うんだ。こんなギトギト系女子よりも。くそう。

「藤真あ、唐揚げ大にしていい?藤真も食べるよね?」
「食う、大でいい」
「やったーおっちゃん唐揚げ大の大盛りで!」
「ははは、お似合いのカップルさんには特別にサービスだな」

違う、俺にはりんご飴を食べるような女の子がだな、お似合いなのであってだな!
隣でピースサインを向けてくるこんなちんちくりんギトギト女子なんて全然、これっぽっちも、可愛く、可愛くなんて、可愛くなんて……チクショウめ!なんで言えないんだよ!



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