再会 [ 3/38 ]

駅の近くにそびえたつ、20歳の俺たちにはちょっと場違いなホテルの大広間。中学時代の面々が食べ放題、もといビュッフェというこれまたちょっと場違いなモノに群がり思い出話に花を咲かせていた。スーツのカフスボタンや、女子たちのドレスも新鮮で、心身ともに、大人になったのだと実感する。
今日は、成人式という大きな節目に開かれる、同窓会だった。

「三井、見ない間にほんとでかくなったよな。中学時代は俺がセンターだったんだぜ」
「お前は身長伸びてないのか。いや、小さくなったのか」
「うるせーな!伸びたよ!三井が伸びすぎなんだって!」

懐かしいバスケ部の面々と騒ぎ合い、他の奴らからバスケ部は変わらないなあと茶々を入れられる。ちなみに俺がグレた話は想像以上に広く知れ渡っていたらしく、尾ひれの否定と弁明を何十回と繰り返した。

「高校時代に女の子とっかえひっかえだなんてほんと羨ましいよな。俺なんて勉強と部活ばっかりの汗臭い青春だったぜ」
「だーから!それは脚色が過ぎるんだって!」
「どうだかなぁ?相当なヤンチャをしてたと耳にしてるんだが?」
「してねえ!いや、ヤンチャはしたけど、ケンカばっかりだっての!」

ヒューヒュー、と囃し立てられる。ヤンキー時代の俺だったら完全に殴ってただろうな。なんて考えながら苦笑を漏らす。中高と部活とケンカ、男くさかったというのに、同窓会でまで男臭いなんてちょっと残念すぎる。もちろん楽しいのだけれど、俺はちょっと他の奴とも話してくる、と男臭いバスケ部の席を離れた。――三井ー、ナンパか?――うるせえ黙れ。


「みーついくん」

どっか、喋りに行きやすいグループがないかキョロキョロしていたとき、ふいに声を掛けられた。振り返れば、左手にたくさん食べ物の乗った皿を持って、もぐもぐと口をせわしなく動かす女子。見覚えがある、ような、気もする。

「久しぶり!覚えてる?」
「おう、それなんだよ」
「は?」
「覚えてるんだけど、名前が出てこん」

頭をひねる。テストの時くらいひねる。名前だけが出てこない。

「隣のクラスだったろ?」
「うん、そう!」
「で、確か陸上部で」
「そうそう!」
「中学ん時はポニーテルしてた。髪切ったんだな」
「そうそうそう!」
「ちょっと待って、ほんと、ここまで出てる!」

目の前の女子は、皿の上の小さく切られたケーキを口に運んだ。チョコレートケーキだろうか。よく見たら皿の上はデザートばっかりだった。そういえば、クッキーとかよく作って持ってきてたような気もする。ん、あれは別の奴か?

「無理、ヒント」
「山田?」
「山田……山田花子?」
「そうそうそうそう!やったー、イェーイ!」

そう言ってフォークを持った手でハイタッチを求められる。あぶねえなこいつ。
山田はどうやら今神奈川の大学に通っているらしく、ちょいちょい電車で俺を見かけていたらしい。世間って本当に狭い。

「声掛けてくれたらよかったのに」
「だって悪い噂聞いてたんだもん。ちょっと怖いじゃん」
「違う!あれは、いや、違くねえけど、ちょっと脚色がすぎるんだよ!」
「ははは、大丈夫、嫌と言うほど聞こえてたよ」
「ほんと、別に俺女遊びとかしてねえのに」
「へたれたヤンキーだね」
「てめ、俺が現役ヤンキーだったら殴ってるわ」

わははと笑い合って、彼女はまたケーキを食べた。唇に残ったクリームを発見したが、なんだか指摘するのがこっぱずかしい、どうしようか、そんなことを考えているうちにクリームはぺろりと舌に掬われてしまった。なんだろう、このがっかりした気持ちは。

「あ、三井くんも食べる?」
「え?」
「ケーキしかないけど、ハイ」
「ちょ、」

目の前につき出された、ケーキのフォーク。間抜けに口を開けた山田は、俗に言う「あーん」を強要しているのだろうか。ええい、こんなことにドキドキするなんて、俺は中学生か。あほらしい、ほんの少しだけ意を決してケーキを口に含んだ。チーズケーキだった。正直、ちょっと苦手だ。

「ヒューヒュー!三井ナンパ成功かー!」

どっと沸いたのは少し離れた席のバスケ部の面々だった。あいつら、中学生か。

「やあ、どーもどーも。ははは」

またフォークの手を挙げて、山田は笑顔を返している。こいつにいたっては、中学生のシャイな部分を綺麗さっぱり忘れてるんだな。一方俺は、恥ずかしさを抑えるのに精いっぱいだった。

「じゃあ三井くん、今度電車で見かけたらその時は声掛けるね!」
「ぉ、おう!」

声が上ずった。やっぱり俺は、中学生なのだろうか。






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