7桁 [ 6/38 ]

「山田さんのこと、好き、かも」

見上げるほど高い位置にある形のいい唇がそう紡いだ。心臓は、どっきんどっきんと大量の血液を送り出し、その血液はわたしのほっぺたを真っ赤に染め上げているに違いない。手の甲を顔に押し当てる。それが冷たく感じるほどに、紅潮していることがわかった。

「山田さんは?」

落ち着きのない沢北くんの手を目で追うのをやめた。顔をあげて、声の主の顔を見遣る。目があった沢北くんは少しびっくりして、わたしに負けずとも劣らないほど真っ赤になったほっぺたをポリポリと掻いた。「ど、どうなの?」沢北くんがどもる。きっと、わたしも――

「す、好きになれそう」
「う、うそー!」

もともと大きな瞳を、これでもかというほどに見開いて、沢北くんはきょろきょろとしてからわたしの目をばっちりと捉えた。それからまた、形のいい口が開く。口角は高く吊り上って、半月のそれよりもずっとゴキゲンな形で、おまけに大ボリュームで、ありがとうと言った。むしろ、叫んだ。
目の前の笑顔につられて笑う。ああ、本当にもう、好きになってしまったかもしれない。100人に聞けば100人がいい人そうだと答えそうな明るい笑顔が、大きな声が、もうすでに、どんな電気ショックよりも強くわたしの心臓を動かしていた。
不意に、沢北くんがスポーツバッグの中を覗き込む。くしゃくしゃになった学校のプリントを、何枚も出したり、閉まったり。その中で、手ごろな大きさの、しわの少ないプリントを取り出して、あごの下に挟んだ。もう一度バッグの中に手を突っ込んで、3色のボールペンをとりだして、黒色の芯をノックする。あごの下に挟んでいたB5のプリントを壁に押し当てて、何かを乱暴に書いてから沢北くんはそれをわたしに寄越した。手洗いうがいを促した健康だよりの裏には、汚い文字で「沢北えいじ」と7桁の番号が書かれていた。

「電話番号!部活終わって、9時くらいよか後なら出れるべ!」
「沢北くんの家にかかる?」
「あはは、あたりめーだろ!あっ、ヤベ部活!河田サンに殺される!」
「あの、」
「わり!また後でな!電話待ってる!」

走り去った沢北くんは、曲がり角で振り返って車のワイパーみたいにぶんぶんと腕を振った。本当にくどいほどの明るい笑顔が嬉しくって、わたしも手を振りかえした。また走って行ってしまった沢北くんは、おかしなことに私のボーイフレンドになったみたいだ。またちょっとほっぺたが熱くなってきて、寄越された紙に視線を落とす。4桁目に書きなぐられた数字は0なのか6なのか、そんなことを考えながら昇降口へと足を進めた。



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