横断歩道 [ 8/38 ]

「なんかさー」
「ん」
「カップルっぽくないよね、わたしたち」
「あ?」

潮を浚った風が吹き付ける。ひゃあ寒い、と花子はマフラーに口許を埋めた。コートに押さえられた彼女のスカートと、三井の短い髪が風邪に揺れる。二人の手は大人しく、それぞれの主のコートのポケットに収まっていた。花子はてっぺんの赤くなった鼻を小さくすすると、話を戻そうと口を開いた。

「デートとかてきとーじゃん」
「んなことねぇよ」
「語弊があった、遊園地とか水族館とか行ったことないじゃん」
「まあ、それは」
「話すこともさあ、昔と変わらないじゃん」
「確かに」
「ね、ぽくない」
「なんつーか、ダチの延長って感じだったろ、俺らの付き合い方」

そっかぁ、と桃色のマフラーがもごもご動いた。なんだよ、なんか文句あんのか、と三井の目線が訴える。それに気づいているのかいないのか、「ま、別に良いんだけどねー」と言いながら花子はマフラーを少し下げた。

「なんでんなこと聞いたんだよ」
「なんで……んー、思い付いたから」
「はぁ?なんじゃそりゃ」
「寿だってこないだ急に黒人のホクロってどーなってんのかな?とか言い出したじゃん」

おー、たしかに。と受け答えしながら、三井の目に映る信号機の点滅。ちょうど自分たちは渡れそうにないなあと思いながら徐々に近付く横断歩道。無意識に止まる脚。そして、違和感は隣の影が止まらないこと。笑いながら、隣の影はフラりと横断歩道に飛び出した。

「ちょっ、花子!」
「えっ」

ぐんと引かれる右腕、揺れる視界、聞こえる三井の声と車の音。一瞬にして目が回って、花子の脳みそは一時停止。お前はアホか!という大声と確かに捕まれている右腕の感覚をなんとか推理に使って、ぱちくり。へらりと笑った。

「わはは、ぼーっとしてた」
「お前、赤信号で飛び出すやつがあるか!バカだろ!」
「ごめんごめん。ていうか寿!これ!カップルっぽい!」
「はあ?!お前なあ、こっちはひやひやしたっつーの!」

説教モードの三井の叱責、そんな言葉は届いたのか否か。少女漫画とかにあってもおかしくなさそうね!なんて頬を紅潮させて話す彼女に、三井はため息をついた。

「もっかいやってほしいなあ」
「お前ほんとバカだろ。こっちの身にもなれっつの」
「はははー、ごめんごめん」

左手でつかんだ右腕はいまだそのまま、定位置である隣に戻った花子を見て、三井は眉を下げて笑う。それから、彼女の右腕を辿りながら左手を下へ下へ、たどり着いた手のひらをそっと包むと、ぽいね、と言って花子は笑った。







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