難点 [ 37/38 ]

「きりィつ、れェ、ちゃくせェき」

キラキラと輝く女の子の目があるのに気付いて、私はハァとため息をついた。何か鬱積とするのもがあるわけでもないし、落ち込んでいるわけでもない。あきれているのだ。
成績、普通。ルックス、普通。性格、普通。それが私、山田花子の唯一の特徴。どんな高校に行ったって勉強ができるかできないかは自分次第。行きたい大学のレベルだってまだわからない。だから選んだ、一番近い湘北高校。難点はほとんどない。ほとんどない、であって、全くないわけではないのも難点なのだけれど。

「礼が済んだら寝るのはやめんか、流川!」

授業開始の前に叫ぶ教員。くすくすと笑う生徒。ため息をつく私。なんだってこんなダメ男がモテるのだろう。スポーツができて背が高いのは、バスケ部の現キャプテンだって同じだろうに。なんてね。こんな小さなもやもやを抱えなくてはいけないのが湘北高校の数少ない難点の一つ。

「神田ァ、流川起こせ」

湘北高校の難点その二。バスケ部期待のスーパールーキーかつ寝太郎こと流川楓君が1年10組、かつ、私の隣の席であるということ。

「起きて、流川君、ねぇちょっと」
「……む」

難点その三。流川君は起きない。ついでに、なんとなく感じる女子生徒の嫉妬の念が難点その四。
結局授業中に流川君が起きることはなかった。いつものことだから誰も気にしたりはしない。無論私もそんな流川君に慣れていたから気にしない。昼休みに飲みそびれたイチゴ牛乳を飲みながら、一緒に教室移動する友達がわたしの席へ来るのをのんびりと待つ。いつも通り。だと思った。

「おい、山田」
「えっ?」
「……お前だ、どあほう」

そんな方向から声がするはずもない。だってそっちは流川寝太郎君の席じゃないか。そんなことを考えていると、追いかけてきたちっちゃな罵声。あれ、やっぱり、流川君?

「えっ、どうしたの?」
「……さっきの授業」
「日本史?」

流川君はこくりとうなずいた。

「お前、俺に声掛けなかったか?」
「え、」

ええー。
入学してから今までというもの、声をかけ続けた流川君、ですよねあなたは。声の出ない私。眉間にしわを寄せる流川君。それから、何か用があったのか、と言葉を紡ぐ流川君。それがやっぱりモテるんだなあと思えるくらいにはカッコよくて、私は勢いよく噴き出した。

「3か月くらいいっつも声かけ続けて今更それ?」
「……何のことだ?」
「だって先生が起こせって言うんだもん。だからほとんど毎時間声掛けてたのに今更かい!」

カラカラと自然に笑い声が漏れる。深くなる流川君の眉間のしわ。それが目に入って笑いながらごめんねとつぶやいた。同時に鳴り響くチャイムの音。顔を見合わせる流川君と私。まぁ、いいや。なんて言いながら何を持たずに席を立った流川君に声をかけると、はるか頭上から返事が届いた。

「屋上で、寝る」
「え……それは起こさないよ?」

自分でも何を言ってるんだと馬鹿馬鹿しくなったけれど、ほんの少し、ほんの少しだけ流川君の口元が緩んだような気がした。ぺたぺたと歩いていく流川君。苦笑する私。空っぽの教室。ああ、そうか、教室移動か。難点その五は薄情な友人だ。なんてね。







back
top
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -