そういう意味じゃ無くってさ [ 15/38 ]

「うっわー!花子!花子!こんなところ幼稚園あるの知ってた!?」

っていうか運動会やってんだけど!うわっ!やべぇ!
日曜日。1時ちょっとすぎ。信長とおさんぽ。
カラフルなフェンスの向こうに見えるのは、ビデオカメラを抱える大人たちの黒だかりと、こんなにも寒いのに半袖半ズボンでグラウンドを駆け回る幼稚園児たちの姿だった。フェンスを挟まずわたしのすぐ隣に見えるのは、駆け回る幼稚園児を見ようと黒だかりを避けるようにピョンピョン跳ねている、清田信長。

「知ってたもなにも、ここ私の行ってた幼稚園だし」
「まじで!うわ!やっべー!」

誰か、信長に「うわ!」と「やっべー!」以外の言葉を教えてやってはくれないだろうか。「そういやおまえんちの近くか、ここ!」と一人で納得して、信長はまたピョンピョン。こんなところで自慢のバスケセンスを見せつけなくてもいい。必要以上に高く高く跳び上がる信長は、花が咲いたような満面の笑顔だった。

「チョー可愛い!こども!!」
「信長こども好きだったっけ?」
「おう!親戚に小さい子いるから、俺こどもと遊ぶのめっちゃうまいぜ!」

類ともみたいな感じかあ。信長、精神年齢低そうだし。こんなことを言うと信長は拗ねる、こどもだから。だから、わたしは口をつぐんだ。信長は爪先立ちになったり、また跳ねたり、怪しいくらいに園内を覗き込んでいる。途端、ああっ!と大声をあげた。どうしたの?と尋ねると、女の子が転んだ!大丈夫かな……?と真剣なまなざしで尋ね返された。親か。

「保母さんとかいいよなあ。俺そういうことしたい」
「男だから保父さんじゃない?」
「へー、そうなのか!じゃあ俺保父さんになろうかな」
「NBAは?」
「ああ!今のナシ!保父さんって言うのはナシで!!ええー、ナシかー!参ったぜ、くそー!」

なんか、頭悪いってこういうことなんだろうなあ、とのんびり思った。どうすっかなあ、と頭の後ろを掻いていた信長は、突如始まった園児たちの創作ダンスにまた目を輝かせている。こいつ、NBAか保父さんかという悩みをもうすっかりきれいさっぱり忘れおったな。どうしたものかこのロリコン。手が付けられない。

「花子、こども嫌い?」
「え?」
「いや、よく考えたらテンションあがってんの俺だけじゃない?みたいな」

信長にしてはよく周りが見えた方だと思った。ふいにこっちへ向き直って小首をかしげている信長に少しだけ感動して、わたしは口を開く。ついでに頭を横に振った。

「嫌いじゃないよ。可愛いと思うけど……」
「おう!だよな!」
「信長、テンションあがりすぎてついていけない」

あ、ちょっときっぱり言いすぎたかもしれない。信長は「え」とか言いながらぴたりと動くのを止めた。信長くん信長くん、そんな絶望しなくていいよ。そう言いたくなるような表情で信長は私を見た。考えてる考えてる。わたしは信長が何か言うのを待った。

「花子、あの、俺ちゃんと花子のこと好きだから」
「……は?」

信長はしっかりと、時間をかけて考えたはずだった。なんせわたしは彼が喋りだすまで10秒ほどはじっと待ったんだから。そして、真っ赤になってうつむいた信長が発した言葉は開けてびっくりトンデモ発言だった。極端な信長の思考回路はきっと、花子が楽しそうじゃない→花子がなにか不満を!→花子園児に嫉妬で俺に不信感!だ。嬉しくなくは、ない。ないけれども。

「あの、信長?」
「俺、こどもも好きだけど、こども可愛いとか言ってたけど、花子の方がかわいいと思ってるし、ちゃんと花子の方が好きだから!」
「え、あ、うん。ありがと、う?」

まっすぐな瞳で、射抜くようにわたしを見つめた信長はかっこよかった。かっこよかったけれども。耐えきれなくなってふき出した私を見て、豆鉄砲を食らった鳩の顔をした信長を見ながら、園児たちよ賢く育て、と思った。








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