たこ焼きレッド [ 21/38 ]

学校帰りの商店街。おばあちゃんがひとりぽつんと座っている八百屋さんや、看板猫が店先でうたた寝している、土鍋とたわしばっかりならんだ雑貨屋さん。コロッケが自慢のお肉屋さんと、お客は爺さんばかりの眼鏡屋さん、それから奥様方の出入り激しい小さなスーパー。そんな中にひときわ小さな敷地面積のたこ焼き屋さんがあった。店先に出された2人腰掛けるのがやっとの小さなベンチに、豊玉高校の制服がふたつ。商店街の平均年齢を下げるのに貢献している数少ない若者2人は、たこ焼き屋さんの常連だった。

「こないだ1個余計に食べたんやから、今日は1個こっちに寄越せよ」
「ええ、ケチぃ!烈も余計に食べたことあるやん!おあいこ!」
「それが部活で疲れた彼氏に対する態度なんかいな、お前」
「今日は自主トレやからいつもより楽って言ってたー。朝言ってたもーん」
「なんやねん、お前それ揚げ足……隙ありィ!」
「あーっ!それあたしの!ちょっと烈!アホか!ああーっ!」
「俺のはふ勝ちぃ!はふはふ」

たこ焼き返せーというのは、毎回の茶番だった(たこ焼き屋の店長がくすくすと笑っていることは誰も知らない)。右脚の太ももをボコスカとなぐる小さなこぶしを制しながら、花子よりも2つ多くのたこ焼きを食べた南はべぇ、と舌を出した。

「花子が素直にくれへんから舌やけどしたわ」
「あほか、そんなん知らん。ざーまぁーみろー」
「かわいないなあ、ほんま」
「うるさいっ、もう行くで!」

花子は立ち上がって、スカートをはたいた。店先のゴミ箱にたこ焼きの舟皿を投げ入れて、ついでに店長にお礼を言って、のっそりと立ち上がる南の手をぐい、と引っ張った。――馬鹿力やなぁお前。――アホか!

「明日は部活?」
「おう。やし一緒には帰れへんな」
「明後日は?」
「明後日も」
「明明後日の午後は?」
「4時には部活終わるけど、お前バイトちゃうんか?」
「あ、そっか。じゃあ日曜」
「午前練のあと岸本と約束が……」
「えーっ!烈のアホぉ!」

花子は右手に握ったスクールバッグを振りまわして、南を殴った。躱しきれなかった南の右脚に跳ねかえったバッグが、花子の左足にもかする。

「じゃあ、昼ごはん」
「えっ?」
「昼ごはん!一緒に食べる」
「明日?」
「うん、予定あんの?」

なんで高圧的やねん。南はツッコミを飲み込んで、ないよ、と返事するために目線を下げた。目が合った花子は、眉を下げたしかめっ面でこっちを覗き込んでいて、上目使いといえど、これほどまでに目つきも悪いと可愛いはずもないのに、南は反射的に目を逸らした。火照る頬を必死に隠して発した返事は、蚊の羽音みたくか細かった。

「なんなん!なんで目ぇそらすの!」
「なんもないから!明日は昼飯一緒に食うんやろ!?」
「食べるけど!なんなん!気になる!」
「なんもないから!ちょ!おまえ!花子!なんやねん!」

急に劣勢に立った自分をおもしろがって、執拗に尋ねる花子の頭を押さえて必死に抵抗しながら、南はあのときちっとも可愛い仕草をしていなかった彼女がどうして愛おしく感じてしまったのか、そんなことを考えた。




(必死こいて一緒にいたがろうとするんが可愛かったんか?)
(そんなん口が裂けても言えへんな……)






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