早く笑った顔が見たい [ 25/38 ]

「ほい、釣れたー」
「おおー。食べるの?」
「リリース」

ああ、もったいない。と言ったら、ブラックバス食べるの?と言われた。さっきまで口に針が刺さって苦しそうにパクパクしていた魚は、すいすいと潜っていってしまった。いい迷惑だろうなあ。

「花子もやってみる?」
「ええー、いいよ、わたし根気強くないし」

顔の前で両手を振ると、彰は眉根を寄せた。そう、とそっけない返事をしながら針に餌をつけていた彰が、もう一度こっちをちらりと見る。手元の茶色い餌がぽとりと落ちた。

「どうしたの?」
「もしかしてなんだけど」
「ん?」
「たのしくない?」

一瞬、ぐ、と押し黙ってしまったことに後悔。楽しくないわけじゃない。テンションが上がりきってないだけ。取り繕ったみたいに、そんなことないよ、と言ったらほんの少しだけ変わる彰の表情。あ、ばれた?ちょっと怒ったかもしれない。

「だってこないだ友達とゲーセンいる時と全然違う」
「え、なんで知ってるの?」
「越野といた。ら、花子もいた」
「声掛けてよ」
「あの時は花子のテンションが高すぎて無理だった。ていうか、話をそらさない」

びしりとデコピンされた。なんて理不尽な!彰とのんびりしてるのも楽しいよ、はあと。なんて甘い言葉を飲み込んで、痛いな、と低い声でうなった。まずい、これは、非常にまずい。

「わかった。じゃあ、ゲーセンいこう」
「え?釣りは?」
「ゲーセンにいたときの花子は楽しそうだった。あのお菓子取るやつ好きだろ?」

別に、ゲーセンにいたからテンションが高かったわけじゃない。小学生じゃないんだから。そんな反論を我慢して、返事を探す。好きだけど、なんて歯切れの悪い返事をしたら、急に立ち上がった彰に手を引かれた。

「ちょ、ちょ、ちょっとそんな急がなくても!」
「だって早く、」
「え?」
「……なんでもない」

半分以上残った魚の餌。ほんとはきちんと返さなくちゃいけない釣竿。全部ほったらかして、そのまましゃべるのも忘れるくらい早歩きで、管理釣り堀から一番近いゲームセンターを目指す。

「行こうとしてるゲーセンなにがあるの?初めて行くんだけど」
「うーん、小っちゃい釣り堀とか、」

そこまで言ってまずい、と思ったんだろう彰がこっちを見た。冷や汗たらあり、みたいな顔をしていて、ワンテンポ遅れて吹き出した。途端に速度がゆっくりになる。彰も眉を下げて笑った。右手があったかい。

「ねぇ、さっき、なんで急いでたの?」
「うん、内緒」
「えー」

看板のハゲたゲーセンの釣り堀で2つ釣竿を借りた。それからさりげなく、のんびりするのも楽しいね、なんて言ってみたりして。にっこりした彰は猫みたいだった。もちろん、目の前のちっちゃいブラックバスなんて食べないけど。








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