マリッジ! [ 27/38 ]

午後8時56分。間接照明のあたたかなイタリアンレストラン。
生憎100万ドルの夜景が見えるロケーションではないが(なぜならここは湘南であり、トーキョーではないのだ!)、プロポーズにはうってつけだった。宮城リョータ、男になる日のことである!

「美味しかったあ。いい感じにほろ酔いー」
「あとは多分、デザートだな。花子甘いの好きだろ?」
「うん!好き好き〜。何かなあ」

ふにゃりと頬を緩める花子につられて俺もふにゃり。それと同時に少しドキドキ。運命の時はすぐそこに迫っているハズなのだ。これまでのところシナリオ通り。我ながらスマートな事の運びに惚れ惚れするぜ。

今後のシナリオはこうだ。まず、デザートを待っている間に花子がトイレに行く。料理の間に一度も席を立っていないのでそろそろであることは間違いない。そしたら事前に店に預けていたバラの花束を持ってきてもらい、こっそり椅子の後ろに隠す。ここで、いかにバレないように隠すかが重大なポイントだ。花子が戻ってきたらデザートを持ってきてもらう。店員はローズとバニラのパンナなんちゃらだと説明するが、バラの味なんてしない。ただのバニラパンナなんちゃらだからだ。そこで俺が花束を出す。キャー!リョータくん素敵!そしてとどめのダイヤモンドだ。
何度も頭の中で反芻する。

完 璧 だ !

さあ花子トイレに行け!行くのだ!さすれば道は開かん……!

「さっきのチキン美味しかったねー!」
「ああ、俺もあれが一番好きだな」

さあ、トイレに!

「あっ、でもキノコのクリームソースのやつもなかなか」
「たしかに、花子好きそうだな、アレ」

トイレに……

「おなかいっぱいー。ただしデザートは別腹なのです!」
「い、いつもそれだな」

トイレ行けよぉぉぉぉ!
行く気配ねぇよ!デザートまだかなー?るんるん――っじゃねぇよ!永遠に来ねぇよ!
膝の上で拳をにぎる。じっとりと汗がにじんだ。

「な、なぁ花子、トイレ大丈夫か?」
「あー……」

さぁ、うん、と言え!頷け!そしてトイレに行け!

「うん、今はいいや」

うん、じゃねぇよ!余計なうん、つけんじゃねぇよ!ゼロコンマ一秒の喜び返せよ!カール・ルイスも驚きの速さで喜びが過ぎ去ったよ!ペネトレイトからのシュート決まった後のオフェンスファールだよ!

――デザートってイタリア語ではドルチェだっけ?

にっこり。
そんな笑顔に涙が出そうになった。




あの日イタリアンレストランにいた過去の自分にひとつ忠告できるとしたら、花子にトイレに行くようけしかけるような言葉を掛けるな、ということだ。毎年「トイレに行ったらデザート食えるぜ」なんて、俺の迷言中の迷言を掘り返されるのはこりごりである。









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