マリッジ! [ 28/38 ]

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってムリムリ!ハゲそう!緊張してきた……!」
「なんでだよ。まだ本番じゃないんだから。ホラ、早く出ておいで」

店員さんがクスクス笑う。宗一郎のため息が聞こえる。
目の前の白いカーテンをぎゅっと握って、宗一郎が力づくで開けられないように抑えた。そのまま後ろを振り返る。大きな鏡に映った自分は、真っ白で、裾が長い、つまり、ウェディングドレスを纏っていた。

「いやいや、だってわ、わたしじゃないんだもん」
「何バカなこと言ってるんだよ。早く出てこないと俺、帰っちゃうよ」
「えっ!違うそうじゃなくって!それは駄目!」
「じゃあカーテン開けて」
「いや待って!それも駄目!」

お客様、とっても似合ってらっしゃいますよ?ぜひ旦那様にも見て頂いて――そんな店員さんの言葉も背中を押してはくれなくて、むしろどうせ誰にでも言ってるんでしょ、なんて思ってしまって。

「花子、あと5秒以内に出てこなかったら、結婚式は私服でやるからね。むしろ俺はジャージでやるから」
「えっ!宗一郎待っ――」
「5、4、3、2――」
「ちょっ!えっ!?」
「1」

明らかに楽しんでいる。そんなことはわかりきっているのに、宗一郎の抑揚のないカウントダウンに、急いでカーテンの割れ目をつかんで左右に目一杯ひっぱった。

「なんだ、カウントダウンで出てくるなんてノリノリじゃないか、花子」
「え、ちっ、違う……っていうか、その、宗一郎、なんで?その格好……」
「だって花子遅いから。俺も決めちゃった。どう?似合ってる?」

そこにいたのは、私服のはずだったのに、ぴったりの白いタキシードを着た宗一郎だった。すらりとした身長に、本当に、贔屓目なしで似合っていて、わたしは何度も何度もうなずいた。あかべこかよ、と宗一郎が笑う。

「奥様のと同じデザイナーのタキシードで、対になっているんですよ?二人ともよくお似合いです」

なんてにっこりと笑う店員さんに宗一郎は愛想良く言葉を返していて。そんな素振りもカッコよくて――ってあれ?宗一郎、わたし、ドレスだよね、あれ?

「そ、宗一郎?」
「ん?」
「あ、あの、わたし、ドレス……」
「知ってるよ?何?」

こんな時まで、お得意のサディストっぷりを発揮しなくてもいいのに。無意識のうちにムスっと頬を膨らませると、宗一郎が大きく笑った。

「嘘嘘、ジョーダン。ちゃんと似合ってるしかわいいよ。後ろ見てごらん?新婚サンみたい」

振り返ると、さっきまでわたしだけを映していた姿見。そこには、もちろんのことなんだけれど、白く着飾った2人が映っていた。恥ずかしくて真っ赤になっていく自分がもっと恥ずかしくて、頬が熟れるのに拍車をかけた。



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