対比



蒼陵高校の通学路には寒そうな木々が新芽を吹き出し、ほんのり薄緑色を覗かせ始めていた
真新しい蒼色の制服に身を包んだ新入生が次々と校門をくぐっていく中、身なりが似ている2人の生徒がバス停から校門までの距離を全力疾走で駆け抜けていく
新しい出会いが始まる良き日に1学年全員が初登校を無事迎えた

最初の1週間は自己紹介とオリエンテーション等であっという間に過ぎ、授業は入学2週目の月曜から本格的に始まった
戸田と松岡は偶然にも同じクラス
しかし、会えると思っていた人物の名前はこのクラスの名簿にはなかった

午前の授業が終えると2人は屋上へ行き、購買で買ったパンを頬張りながら始まったばかりの高校生活の話をしていた
どんなクラブ活動に入るか、高校生でもできるバイトは何をしようかなど、これからの楽しい学生生活の話に花を咲かせていた
昼休憩が残り少なくなると戸田の口調が少しだけ暗くなり、こんなことを言い出した
「でもさ、どうしよう…」
「急にどうしたんだい?」
「いや…ちょっと悩み事があって」
「悩み事?」
「高山くんにあったらさ、普通に話がしたいんだ…火傷させちゃったことはちゃんと謝る!…だけど…その後、何を話したらいいのか分からなくて…;;」
「じゃ…戸田くんの興味がある話をするとか?」
「僕の興味がある話?……格闘技とか?」
「(゚д゚!!もっと普通な話にしようよ…;;」
「だ か ら さ…!僕には普通の話題が分からないんだってば!!」
「ん〜じゃ、勉強の話?」
「なっ!勉強なんて嫌いだ!」
「……そうやって、自分の意見ばかり押し付けてちゃ、昔と何も変わらないよ?」
「なんだよ、急に大人ぶりやがって!」
「いやいや…;;別に大人ぶってる訳じゃ―…」
「もういい!」

キーンコーン―

2人のヒートアップした会話の最中に授業開始の呼び鈴が校内に鳴り響いた
「やばいっ次、体育だった!」
「急いで戻ろう!」
2人は屋上の入口に急いで駆け寄り、一つしかないドアを勢いよく開けた

 ドンッ

「わっ!!」
ドアの向こうにはちょうど階段を上りきってきた生徒がいて、戸田は避けきれずおもいっきりぶつかってしまった
「ごめんっ!!」
「ごっごめんなさい!」
戸田は簡単な声だけかけ、急いで階段を下って行った
写生版を持っていたその生徒も短い返事だけ返して、後ろにいた少し背の高い生徒に支えられて体制を整えた
「ビックリしたな!ドアからいきなり来るんだもんよぉ。ん?どうした?さっきのでまた痛めたのか?」
「ううん。違うよ」
背の小さい生徒は左手を右手に添えながらこう言った
「お前が言ってたこの―」
「願いを叶える包帯のことか?」
「……本当に叶うんだなって」
「んなわけないでしょ〜だってあれは俺様の―いやっ違う!違うからな!傷が治るって願いは叶うさっ。きっとな!」
「…ありがとう。さ、グラウンドが見える場所まで行こう」

茶色の土埃がまう校庭には元気よく声を上げてサッカーをしている1学年の男子生徒たち
ゆるい斜面の土手に植えてある木々には淡い桃色が彩り、淡い蒼の体育着とのコントラストに瞳が自然と細まる
真っ白なザラザラの画用紙に鉛色の線が薄く描かれはじめ、濃淡が次々に生み出されていく

最後に躍動感ある人物を書き終えると、制服と同じ色をした空を見上げながら疲労感の残る右手を太陽にかざした
何かの願いを込めたかのように利き手をぎゅっと握りしめ、数秒間だけ瞳を閉じた

キーンコーン―

授業の終わりを告げる呼び鈴は、ある場所へある人たちを集合させる合図の役割も担っていた
屋上から1階まで一気に階段を下る
荒い息遣いの音が無音になるころ、生徒玄関に徐々に雑音が混じり始めた
運動靴を脱ぐスペースで同じ動きをしている生徒の中に直立不動の生徒を2人見つける

音を発しない2つの前線がゆっくりと接し始めると、桜前線より少し早く満開の笑顔が訪れたのだった


[*前] | [次#]
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -