頭文字



「戸田くん、外見て」
「ん?あ…」
眠たそうな戸田の瞳に映り込んだのは、雪化粧した校庭
そこには元気そうに雪合戦をしている下級生たちの姿
甲高いその声は、2人に追い込みのエンジンをかけなおす
机の左上には届いたばかりの受験票
受験生にとってとても大事なはがきサイズのその厚紙は、ゲタ塾で過ごす2人の残り少ない日々を優しく見守っていた



季節は廻り、暦は如月
そして、明日はいよいよ志望校の受験日

3年に上がると1日が終わるのが本当に早くて、今までに味わったことがないくらい充実した日々を過してきた2人
走馬灯のように蘇る鮮明な記憶の中で1番印象に残っているのは、荒れ狂った反抗期ではなく運動会での活躍だった
今までの2年間が嘘だったかのよう、自然とクラスに溶け込んだ2人+αは、ある重要な役割に抜擢された
リーダーシップのある戸田
腕力が人並み優れた松岡
何故か生徒の中で評判になっていたゲタ吉
そして、色白な担任
以上4名はグレカル(グレーカルテット)と命名した組を結成し、学ランではなくチアーの服装でクラス応援を果たした
その勢いは止まらず、最終的に数百名の下級生を従え学校全体のチームを作り上げてしまうほど心から一致団結した彼らは、羞恥を誇りへと変える力を身につけた
そんなつい3ヶ月前の出来事ですら振り返り
「あっという間だったね」
「うん。なんだか信じられないな」
2人は思い出話に花を咲かせていた

いろんなものを取り戻し始めた最終学年
決意を改めた丸坊主は彼らの成長を表すかのよう豊かになり、肝心の成績も志望校B判定にまで追いついた
このままいけば大丈夫と、担任とゲタ吉のお墨付き
後は当日のコンディションだけ
「明日に備えてさ、お参りして帰ろうか!」
「そうだね」
松岡に誘われ戸田は近くの神社まで一緒に行くことにした
賽銭箱の前に立ちパンパン…と、甲高い音を響かせ無言で祈る
「……」
「……」
いつもより少し長い無音と眉間のしわが彼らの真剣さを物語る
ふ…と軽く溜息をついた後、2人は新雪の感触を楽しみながら家路に着いた


*


受験当日
会場はもちろん志望校の蒼陵高校
競争率は少し激しく1.4倍
机に向かう受験生の表情は硬く、視線を泳がせている人物など誰もいない
…はずだったが、青白くなっている生徒が1人だけいた
「…やばい」
それは、受験票を忘れてた戸田だった
こんな肝心な時に…!
急いで席を立ち3つ先の教室に入ると、見つけた松岡にすぐさま相談した
「えっ!どこに置いてきたんだい?」
「たぶん理科準備室だと思う…!そうだ、担任の先生に言えば―」
「でもさすがに難しいと思うよ」
「どうしよう…(*゚ロ゚)ハッ!!」

「「ゲ!!」」

声が揃った人物を頼ろうと、公衆電話に駆けつけた
試験開始まであと45分
気持ちが焦り、携帯の番号を2度押し間違える戸田
3度目の正直でやっと伝えたい相手に繋がった
「―は―い」
「あ!先生?僕です!戸田です!」
「―なに、どう―」
「あのっ、僕っ、受験票忘れちゃってっ」
「―はぁ?お前最後になにやってんだよ!」
「すみませんっでもっどうしたらっ」
「―どうしたらって俺も忙しいから無理!早く席に戻れ」
「=( ̄□W;)⇒」

 プープープー 

通話料金の10円は携帯電話相手に数秒でKO
「ゲタ吉先生はなんだって?」
「…無理だって…席に戻れって見放された…orz」
「…時間もないし言うとおりに戻ろうか、戸田くん」
「…orz」
五十音順にクラス分けされた教室にそれぞれ戻る戸田と松岡
戸田のクラスは苗字に「タ」のつく生徒から順番に席が決まっていた
「ト」で始まる戸田は最後の列の真ん中の席だった

 ドタドタドタ……ガラガラ

うるさい足音と共に試験監督が教室へ入ってきた
意気消沈していた戸田以外の生徒たちの背筋が一段とよく伸びる中、注意事項を板書し終えた高校教諭は裏返しの試験問題を1人ずつ配布し始める
もちろん同時に受験票の確認も行っている
「おい、 落 ち て る ぞ」
「「!!」」
戸田の近くにきた教諭が何かを拾って戸田の机の上に置いた
「!?これ…」
「よかったな。受験票だけ 落 ち て て」
「「!!!!!」」
生徒たちの背筋がさらによく伸びカタカタと震えだす
この場で禁句中の禁句を言い放った試験監督は、戸田の耳元で小声でさらに一言付け加えた
「非常勤講師も五十音順で試験監督やらされんの」
「…」
「それでは、試験を開始してください」
状況把握が全くできていなかった戸田だが、開始合図と同時に無我夢中で試験問題に取り組みだした


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