真紅



ある日の放課後、部活以外の生徒が下校した閑静な校舎の一室に戸田と松岡の姿があった
この少し狭い部屋の隣は、いい思い出のないあの部屋
2人は少し息苦しさを感じながらも、呼び出した人物を待ち続けた
文句を言いながらも真面目に登校し、新学年になってからまだ一度も休んだことがない
呼び出された理由が不明過ぎると文句をいい始めた…と同時に書類を抱えた担任が入ってきた
2人の向かいに座り、紙という紙を黒い机が埋まるまで広げ終えると少し真面目な口調で話始めた
話の内容は、2人の成績のことだった
余りにも学力が低いこの2人の為に
「今日からお前らに家庭教師をつけることにした」
「ここで!?」
「そう」
「ここ学校…だよね?」
「…いいから!そろそろ先生くるから」
「えぇー!自分は教えないのかよ!」
「俺も色々忙しいの!」

 ドタドタドタ…

廊下からだんだんと足音が大きく聞こえてきた
「お、来た来た」
「……兄弟でも呼んだのか?」
「まさか、違うよ!」
「同じ髪だったりして」
「ふふ、それ笑えるね」
「それは今のお前達もだろっ!」

 ガラガラ!

準備室の扉を開け、少し賑やかになった室内に入って来たのは、ちゃんちゃんこ柄の少し大きめな服を羽織った1人の男性
かっちりした格好の担任とは間逆のゆるい服装で3人から大注目を浴びているその人物は、仁王立ちまま第一声をあげた
「っ!なんだ…これは!」
続けて戸田も驚きの声を上げた
「ゲっ! (さすが兄弟、色一緒!)」
「俺の名前を知ってるってことは…もしかして…!あの時の子か!」
「わっなんで僕、抱きつかれてっちょっっ///」
「よしよーし!」
「こらっ 離 せ !!」
初対面の2人は何故が親子のようなスキンシップをはじめだした
「さっそく気に入られたみたいだね……」
「…ご愁傷様」
「松岡くんも気を抜かないようにしないと」
「僕はこれ以上、面倒な人はいらないので」
「え?あ、そうね…」
こんな感じ?で、一風変わった家庭教師“ゲタ吉”との初対面となった


**


初対面の翌日より理科準備室でのゲタ塾が始まった
2人の学力はそれはもう最悪で…orz
この10ヶ月の間に中学3年分の知識を詰め込まなくてはならない先生は、かなり辛いはず―
だが、ゲタ吉はそんなことなどなんとも思ってなかった
「これでも高校いってたんだぞ」
と、胸を張るゲタ吉の家庭教師ぶりはというと、決してうまい教え方ではないが、とても印象に残る独特な教え方をしていた
「お前等のアレ先を俺の方に向けて」
「・・・///」
「つまり二等辺三角形の底角は等しい」
「そう、そういうこと♪」
「最初からそう言え!」
「なんだ?実践したいのか?」
「やっ...// ワ カ リ マ シ タ 」
3人の絶妙な関係は放課後の疲れ切った脳を活性化させるのに一役買っていた

「うわーー!もう疲れた!」
「んじゃ、今日はこの辺で終わるか」
「適当だな!これでちゃんと受かるのかよ」
「それは戸田しだいだ」
「なんだよ!それは!」
ちょっとムっときた戸田が、ゲタ吉の胸元を掴みながら文句を言い始めた
「分かってる?俺、今、お前の先生だぜ?」
「何が先生だ!この適当野郎め!」
戸田がゲタ吉相手に久しぶりに右ストレートを叩き込もうとしたが、軽く交わされてしまった
ゲタ吉はその空をきった右腕を掴むとそのまま準備室の扉にドンっと響く音を響かせながら彼を押さえ込んだ
ゲタ吉の見下ろした目はやや冷たく…戸田の目は見開き鈍痛に顔を歪め…松岡は冷や汗を感じ、点の様な目をしてた
「んだよっ離せってばっ!」
ぴったりと背後が扉にくっついているせいか、身体を自由に動かすことが出来ない戸田
その隙にゲタ吉は開いている手で戸田の頬を掴み、自分の顔の方へ向けると、まるでキスでもするかのうように顔を近づけ始めた
「やめろってば!」

 ガブ!

明らかな拒絶を示した戸田は大口を開け、ゲタ吉の手を噛んだ
その痛さで手を離したゲタ吉は、自分の皮膚に付いた歯型をペロっと舐め
「へぇ お前、心は純粋なんだな」
「そっそんなんじゃない ///」
「そ。じゃ、元気出たみたいだし、後2時間やるか」
「・・・」
「ご、ごめん…松岡くん…」
一部始終を黙ってみていた松岡には気の毒な展開となってしまった


*


2時間後、やっと開放された時には既に22時を回っていた
2人にしてはまだ遅い時間とは言い切れないが、心は既に達成感で満ち溢れていた
「戸田くんは純粋なんだね」
「松岡くんまで!そっそんなことないさっ」
「ふふ、それも純粋」
「えぇ?」
そんな会話を弾ませながら、同じ通学路を帰って行った


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