志操高潔



あの日から一度も学校に来ることなく高山はまた転校してしまった
担任の教諭は、家庭の事情とだけ生徒達に告げた
たまたま戸田と松岡が高山を呼び出した日が最後の登校日だった

いつも通りの年末年始が過ぎ去り、これから今年度最後の行事、卒業式が始まろうとしている
これだけの月日が流れたというのに、未だあの事情を受け容れられない人物が1人が今日もまた保健室で叫んでいた
「だから僕のせいなんだろ!!はっきり言えよ!!」
「何度言ったらわかるんだね!君のせいではないんだ」
「じゃなんで!なんで次の日来なかったんだよ!」
「さっきも言ったが―」
「うるさい―っ!!」
暴れ出す戸田の腕を松岡はぎゅっと握った
「まっ松岡くん…」
「戸田くん…ちょっと落ち着きなよ」
「…なんだよ、そうか…お前こいつの前だといい子ぶるもんな」
「そうじゃない」
「じゃ、なんなんだ!一緒になって!もういい!!」
「戸田くん……」
戸田は松岡の手を薙ぎ払い、部屋を出て行った
松岡もその後を追おうと一歩足を踏み出した時、肩を養護教諭に掴まれた
「あの生徒は、隣市の高校に行くらしい」
「なんでそれを僕に?」
「さぁ…なんでかな」
松岡は手械の付いたその手を振り払い、保健室を後にした


*


戸田は校舎の屋上に来ていた
フェンスに寄りかかり、いつも屯って居た倉庫を眺めている

ヒュー…

木枯らしを真っ向から受けた彼の髪は、かつての勢いを失速させたかようにゆらり…ゆらり…と静かに靡いていた
「戸田くん…」
「っ…!」
彼の後を追って松岡も同じ場所にあらわれた
「…さっきは…その…すまなかった」
「僕は気にしてないさ」
「なんかさ…いまいち素直になれないんだ」
「…」
「…」

カラカラカラ…

暫く枯葉の音で気持ちを落ち着かせたあと、松岡が口を開いた
「高山くん、隣市の高校に行くんだって」
「こうこう?…高校…高校か…そうか!それだ!!」
「何?どうしたの?」
「進学するんだよ!同じ高校に!」
「えぇ!!」
「そこで会って謝るんだ!そうじゃないとっ」
「また暴れちゃう?」
「お…読まれてた…」
「………僕も付き合うよ」
「え…?」
「僕にだって非はあるさ、ただ…戸田くんみたいに感情に現さないだけ」
「……………ありがとう」

体育館からは蛍の光らしきメロディーが聞こえてくる
そんな中、獅子は覇を明渡し、牡丹は花弁を散らした


*


陽春を迎えた今日、新学期が始まった
2学年はそのまま全員最終学年に進級し、クラス編成もなく何の変哲も無い日々がまた始まる…はずだったが、後の席に座るあの2人に異変が起こっていた
それは、どんな大怪我をしたのかが分からない程の、右目を除く頭部全体に巻かれた包帯
異様な光景が気になる生徒達だが、誰一人近寄ることが出来なかった

HRのベルが鳴り、黒板側の扉がガララ…と開く
いつものように黒板消しが天井から落ちてくることも無く、黒板を背に立つ教諭を生徒等はまじまじと見つめ始めた
それは去年までの担任ではなく、全く違う教諭だったから
日直が挨拶をしようと動き始めた時、新担任に「ちょっと待って」と止められて、その当人は教室の後へ向かって歩き出した
行き先は、あの2人の前
「ほらよ」
なんの躊躇いもなく、脇に抱えていた銀色のウィッグを2人の頭に押し付けた
「……変な色、しかもボサボサ…」
「なんでお前がいるんだよ…」
「今日から俺が担任」
「!」
2人の前に立ちはだかったのは、あの理科の教諭だった


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