虎視耽々ならぬ獅視耽々



睡蓮が咲き乱れる初夏のある日、臨時放送による全校集会が開かれた
廊下に2列に並んだ生徒が下級生から順に体育館へと入っていく
全学年が入り終わると登壇した校長と"おはようございます"の挨拶を交わす
その響き渡った声の振動を聞き 体育館2階の踊り場に姿を現した戸田と松岡
いつもは姿すら現さないが今日は列の揃った黒い集団を上から見下ろしていた

"今日は転校生を紹介―"

「何だって?」
「はっ新しい面かよ」
教頭の放送で1人の少年が校長と一緒に壇上へと上がると二人はそろって視線を向けた
マイクを使って全校生徒の前で挨拶をするその少年は緊張しているのか地声なのか少し高めの喋りをしている
1分にも満たない挨拶が終わると自然と拍手が沸き起こり、少年はそのまま壇上に残ったまま次は長い長い校長の話が始まった
「随分と綺麗な格好してる子だね」
「………」
「戸田くん?」
「あっあぁ…ごめん 何か言ったか?」
「いや…何でもないさ」
松岡は戸田の威勢のない喋りと泳いでいる視線に違和感を感じ、会話を途中でやめてしまった
その理由を知る由もない戸田は無言で壇上を見つめ続けたまま
その目はいつもの様に獲物を狙う鋭い目ではなく、眩しい光の先のものを見る様な目をしていた
校長の話が終わり少年が壇上を降りたのを確認すると、2人は生徒達より先に体育館を後にした

その転校生は偶然にも2人と同じクラスとなり、名前は高山といった
ホームルームでは担任から詳しい紹介がされた
親の転勤でこの街にやってきた高山はこの前まで都会に住んでいたのだという
「短い間とは思いますが 仲良くしてあげてくださいね」
担任の先生が紹介を締めくくった後、高山は席に座った
――1番前の窓側の席
ちなみにあの2人の席は高山と正反対側となる廊下側後部座席
言うまでもないがいつもは空席だが今日のHRに空席は見られなかった


*


キーンコーン―

1限目開始のベルが校舎に鳴り響く
それを合図にしてあの2人は今日も席を立ち去るがクラスの中で話題にする人は一人もいない
しかし、高山だけは不思議な表情を浮かべ空いた2席を眺めていた


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