訪れた季節
新卒なら3月の卒業なんだけど、僕は夏終わり秋初めに卒業となった
「卒業おめでとう」
「ありがとう。ちょっとオーバーしちゃった;;;」
「いいじゃない。ほら、沢城くんも祝ってくれてるわよ」
沢城くんは医学部校舎の窓から僕らがいる中庭に向かって手を振ってくれていた
僕も手を振って軽くお辞儀をした
「国試はきっと大丈夫ね」
「たぶん」
「そうそう今夜ね、お祝いディナーを予約したの」
「え?!僕の為に?」
「もちろん!私料理下手だから…行くでしょ?」
「うん。嬉しいよ」
「その後…お部屋行っていい?伝えたい事があるの」
「伝えたい事?」
夜はちょっとだけ綺麗めの服を着て、ネコ娘もお洒落な服装できてくれて、少し高級なレストランでお祝いをしてもらった
「今でも思い出すわ。最初の講義から欠席する鬼太郎の事。なんてだらしないのって第一印象はそう思っちゃった。でも不思議な魅力があって、頭も良くて、料理もできて。その割に友達がいなくて変な人だなって」
「だって1人が好きだから」
「なんで私たちこんなに仲良くなったのかしら」
「何故だろうね」
今思い返してもわからない
「これからどうするの?」
「免許を取ったら先生の紹介先に就職しようと思って。軌道に乗ったら社会人大学院にでも行こうかな」
「相変わらず勉強が好きなのね。あぁ〜あ、私の卒業はあと2年後よ。長すぎる;;;」
「たまには息抜きで出かけようよ。みんなでさ」
「そうね!」
楽しい時間ほど過ぎるのが早い
そのまま車で僕の家にいって、部屋で動きやすい服装に着替えてからラグの上に横並びで座った
ネコ娘と2人きりは久しぶりだな
そんなことをふと思っていた時
「ねぇ鬼太郎…私の事どう思っている?」
「え?」
急な話題で頭が少し混乱してしまった
どう思っているって…
どう答えたら…
「私、鬼太郎の事が好きなの。これからもずっと一緒に居たいと思っている。ずっとの意味…わかってくれる?」
…わかるよ
痛いほどわかってる
でも…
「駄目だ…僕じゃ駄目なんだよ」
「何が?」
「僕は君を幸せにできない」
「どうしてそう言い切れるのよ!最初からその気がないっていうの?!」
「違う!違うんだ…僕は…その…普通の人間じゃないから…」
…だから駄目なんだ
「だから?」
「え?」
「私たちはいつも人間より動物に接する事が多いでしょ?その動物たちも私大好きよ。鬼太郎が普通の人間じゃなくたって、何かの動物だって妖怪だって言われても、私は気にしない。全て受け止めるわ。だって…鬼太郎の事、大好きなんだもの」
「ネコ娘…」
…君には幸せになってもらいたいんだ
だから…
僕は諦めないといけない…
「僕と一緒になっても君に迷惑をかけるだけだ。きっと子供を授かる事もできないし。明日急に死ぬかもしれない。それにー」
「そんな事、今から考えなくてもいいじゃない。変わるかもしれない未来を勝手に想像して怯えて生きていくのはおかしいわよ!」
「!」
「今までそう生きてきたの?なんて可愛そう…私が全部塗り替えてあげるんだから…」
…未来が変わるかもしれない
本当?
そしたら…
気付いたらネコ娘の身体をぎゅっと抱きしめていた
「本当に…僕でいいのかい?」
「何回も言ってるじゃない//// ここまできてまだ言うの?」
「だって…今ならまだ戻れるから」
「いいの。もう決めたんだから…」
「ネコ娘…」
名を呼んでからチュク…っと短めの口付けをした
「っ…」
「嫌だった?泣いてる」
「ううん…とっても嬉しくて…」
「本当?僕も凄く嬉しい」
ネコ娘をベッドに寝かせて、何度も口付けを交わした
「服…脱がないの?」
「…だって…傷だらけの身体なんて見たくないだろう」
「私は全て受け止めるって言ったじゃない。それに私だけ脱ぐのって、おかしいでしょ?」
「…わかったよ」
部屋の明かりを落としてから、今まで一度も見せた事のない身体を晒した
右腹部の1番大きな跡を細い指で撫でられながら
「たくさんの跡…それに体毛はないのね」
「…気持ち悪いよね」
「どうしてそうすぐ自分を見下すの?」
「自分に自信がないからかな」
「その自信、意地でもつけてあげるわよ」
スリ…
「// どこを触っているんだっ」
「どこって…これからする事知ってて言ってるの?」
「///」
「鬼太郎だって立派な男じゃない。早く…私を女にさせなさいよ」
「もう…後には戻れないからな」
この日
僕は男に
ネコ娘は女になった
「入籍するんですか?」
「うん」
「おめでとうございます。2人はとってもお似合いですよ」
「ありがとう」
学食で沢城くんに僕たちの事を報告した
「もう僕は何も隠さない。何かに怯える事もない。何かあってもネコ娘や沢城くんがいるから。あと先生もね」
「そうですよ。素が1番楽です」
「お祝いしてくれるかい?」
「もちろん。あ、僕も伝えたい事があります」
僕らの報告だけのはずが、沢城くんからも意外な報告を受ける事になった
「そういえばあの2人やっとくっついたみたいね」
「高山さんは真面目だし奥手だから」
「…その言い方、あんたは真面目じゃないって言いたいの?」
「僕?約束はちゃんと守ってるじゃないか」
「…そうね」
「それで?いつがいいんだ?」
「急に何の話よ」
「入籍だよ」
「!!!なっ!?何言ってんのよ!誰の事?!」
「え?僕たちも結婚するだろう?」
「!!!!//// そういえばあんたって昔からそうだったわ。雰囲気も何も関係なー」
チュク
「ちょっと!今喋ってたでしょ?!///」
「前に言っていたじゃないか。大人になったら自由になるって」
「自由過ぎるわよ!!それにあんたまだ学生じゃない!」
「そういえばまだ車の免許取ってなかった」
「…なんか違うんですけど;;;;」
10月10日 秋晴れ
その日は僕たち4人の素敵な記念日になった
医学部を卒業した僕は、研修医として僕の系列病院に配属となった
父さんとは親子関係では冷めていたけど、師弟関係だと全然違って僕にいろんな知識を教え込んでくれた
そして、高山さんの事も教わった
謎の病気に罹り5歳で死にそうになった高山さんを父さんが引き取って、色んな手段を使って全力で生命維持治療をしたそうだ
数々の治験に協力する代わりに再生医療の案件を請け負ったらしく、それは全ては高山さんを救いたかったからだった
そんな高山さんの主治医を今では僕が請け負っている
「それじゃよろしく頼むよ」
そう言って診察にきた高山さんは服を脱いでベッドに横になった
肌を触るとメスの痕が至る所にある
でもとても綺麗な縫い目…
「どこか痛む場所はあります?」
「痛みはないよ。もうだいぶ前だから…」
カルテを見ると心臓以外、全ての臓器が培養されては摘出されていた
体毛は手術の邪魔になるからか、どこにも生えていなくて
あと全ての臓器が備わっていた
通りで性別が空欄な訳だ
「最後は5年前のクローン胚培養ってなっていますね」
「うん。何度も人工的に受精させられて宿されたけどー」
「全て稽留流産になっていますね。やはり犯してはいけない領域があるんだな。それじゃ腹部エコーからしますね」
そう言っていわゆる人間ドッグのような精密な検査を行った
「異常はなかったです。あとは採血結果待ちですね」
「ありがとう」
「…痕、消しますか?植皮になりますが…」
「うん…悩んでいる。消したい気持ちもあるし、でも自分の生きた証でもあるから…」
「またあとで考えましょう?もう服を着ていいですよ」
ドタバタ ダダダダ
「もう走るなって言ったのに…うるさくてすみません;;;」
「気にしていないよ。そういえば子供は何歳になったんだい?」
「もうすぐ3歳です。あっという間に大きくなっちゃって。抱っこすると結構重いですよ」
「…僕も家族って望んでいいのかな?」
「高山さんは元は男性の身体みたいですが、今の身体だと女性ホルモンが心配です。望むなら臓器を取り出した方がいいかもしれません」
「…お願いできるかな?」
「わかりました。父さんと相談しておきます」
まだまだ経験の浅い僕には、治療の決定権はない
2年後
ニャー ガリガリ
「おかあさん!ニャーがおなかすいてるみたい」
「ミルクの準備するからちょっと待ってて」
ピンポーン
「あ!ネコちゃんきたよ!」
ガチャ
「先生こんにちは」
「いらっしゃい。今日は検診?」
「ううん。今日は鬼太郎の診察に一緒についてきただけ」
「そう。ゆっくりしていって」
「ネコちゃんあそぼう?」
「先にニャーにミルクあげてきてくれる?」
「はーい」
ドタバタ ダダダ
「元気ですね」
「本当、どっちに似たんだか;;」
「女の子だし、きっと先生じゃないですか?」
「/// そっそんな。自分はこんなに煩くなかったはずよっ」
「またまた〜。あ、これ鬼太郎が作ったケーキ。よかったらみんなで食べてください」
「わざわざありがとう。高山くんは本当に料理上手なのね」
「宝の持ち腐れなのよね。いっそ料理屋でもやればいいのに」
「常連客にやきもち妬かない自信があったらね」
「;;;;;; やっぱりお店はいいかな;;; あはは」
「ちょうどおやつの時間だし、一緒に食べましょう?」
3人でテーブルを囲い、パウンドケーキとお茶で女子会を始めた
「このケーキおいしい!」モグモグ
「そう?よかった。いっぱい食べてね!」
「うん!」
「体調はどうなの?」
「私は大丈夫なんだけど、鬼太郎の調子がいまいちで。また血管腫ができちゃって」サスサス
「良性だからきっと大丈夫よ」
「そうね。沢城くんが診てくれているし。それにしても先生の家は大きくていいなぁ〜のびのびできちゃう」のび〜
「その分掃除が大変よ」
しばらく団らんしていたら、窓から白衣と私服の男性が玄関から出てきた様子が見えた
「あ、診察終わったみたい。それじゃ帰ります〜お邪魔しました!」
「ばいばい!」
ガチャ バタン
「ネコちゃんおなかさすってた」
「ネコちゃんももうすぐお母さんになるからね」
「そうなんだ!あかちゃんといっしょにあそびたいなぁー」
「そのうちね」
ニャー ゴロゴロ
「そのときはニャーもいっしょにあそぼうね」
「大丈夫だった?」
「問題ないってさ。でもここ数年よくできるんだ」
「血が余っているんじゃないの?」
「献血でもできたらいいんだけど…僕はできないから」
「そうね。できない事よりもできる事で考えましょう?あ、今日のケーキ好評だったわよ」
「本当?よかった。また作って今度はみんなで食べようか」
ぎゅー
「//// 鬼太郎っ」
「手を繋ぐのは嫌だったかい?」
「ううん。なんだかデートみたい」
「夫婦なんだから恥ずかしがる事ないじゃないか」
「そうね。さーて、今日の夕飯も手を振るって貰おうかしら」
「はいはい」
春に出逢った僕たちは
夏までに近づいて
秋にはいつも側にいて
冬に運命の選択をした
廻る季節のその先に
僕たちだけの未来がきっと訪れる
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