運命の冬



校内を歩いていたら

「あ…」

サッ

「…なんだ。だから卒試は来年の夏に受けようと思う」
「今受けてもきっと受かるのに。勉強不足?」
「しばらく休学する事にしたんだ」
「え?どうして?」
「…ちょっとね」

高山さんとネコ娘さんが立ち話をしている場に出会してしまった
そのまま柱の影に隠れて聞き耳をたてる

「一体どうしたの?悩み事?」
「違うよ。その…うまく言えなくてごめん」
「私に言えない事なの?」
「…うん」
「沢城くんにも」
「…うん」
「そう。でもまた戻ってくるんでしょ?」
「そのつもりさ。あと少しで卒業できる所まできたんだから」
「…連絡はしてよね」
「うん。するよ」

休学までするって何をするんだろう
だからか
そろそろ親が心配するから家に帰った方がいいよって言われたのは

「失礼します」

たまたま人事課に書類を提出したら、PCに休学手続きの画面が開かれていた
誰も見ていない
僕はそっと画面を覗きこんだ

「高山さんの情報だ」

クルクル…カチカチ

「え…」

理由に欄には、手術の為って書いてあった

高山さん…やっぱり何か大きな病気でもしているのかな
あ、僕の系列病院で手術を受けるみたい

本当はダメだけど


家に帰ったら秘書室のPCで高山さんのカルテにアクセスした

「なんだこれ…」

そこには物凄い数の手術歴が入力されていた

軟骨培養-軟骨摘出
幹細胞培養-肝細胞摘出
骨髄採取



血管新生-新生血管摘出
クローン胚培養予定

手術歴に培養?
何これ
それに生年月日がおかしい
大学生なら20歳超えているはずなのに、カルテでは5歳になってる
あと性別が空欄だ

「え…」

1番の違和感はこの記載だった

多能性幹細胞用人間-PSC1

「これって…」

これは再生医療の為の細胞の呼び名だ
つまり高山さんの身体を培地にして、移植細胞を培養させて、健常人に移植していたって事?
しかも僕の病院で…
そんな…
人間の身体を臓器工場にするなんて禁止されているのに!

「誰かいるのか」
「!!」

秘書が帰ってきた
やばい
電源を切ってそっと部屋を出た


知らなかった方が良かったのかもしれない
僕は余計な事をしてしまったんだろうか

高山さん…
高山さんはどう思っているの?
このままでいいの?

そういえば高山さんの手術日は全て平日の深夜になっていた
…朝講義に来れなかったのは、寝坊していたんじゃなくて、バイトのせいでもなくて、麻酔が覚めるのを待っていたからだったんだ
…そして今夜も手術日になっていた


普段は絶対入らない家の奥にある裏玄関
中に入ると家というよりかは病院だった
明かりがついている部屋が1つ
中を覗いてみたら彼が居た

「…高山さん」
「沢城くん…そうか。ここは君の病院だったんだね」
「…」
「僕の秘密…知られちゃったよね?」
「…すみません」
「ううん。いいんだ。僕は自分の生き方を選べない。そんな権利は持っていないんだから」
「っ…」

ガシッ

「なっ何をするんだ!」
「一緒に逃げましょう?駄目です!こんな…こんな事を続けていては」
「それはできないよ…僕の細胞を待っている人がいるんだ」
「っ…その人の為に自分はどうなってもいいんですか?」
「だって…その為に僕は生かされているんだから…」
「生かされている?」
「…僕は小さい頃に一度死んでいるらしい。いろんな人から細胞を分けてもらって今の自分があると聞かされた。だから今度は自分が同じ事をしないといけないんだ」
「僕が…こんなに嫌な思いをしているのに…」
「え?どうして沢城くんが嫌な思いをしているの?」
「だって…高山さんと一緒に居たいんです。これからもずっと」
「無理だよ。できない」
「どうして!」
「僕は普通の人間じゃないから…」
「そんな事ないじゃないですか!心も持っていて知識もあってそれに」

ぎゅ

「こんなにも人間らしい温もりがあるのに」
「…沢城くん」
「高山さんも1人の人間です!自分の倫理観を持って生きてほしい」
「…自分の倫理観」

ガダッ

「何をしている!」
「父さん!どうしてこんな事を」
「お前には関係ない」
「っ…そんな事を言うなら世間に公表してやる!」
「それは無駄だ。これは政府の極秘研究なんだ。国が黙っちゃいない」
「そっんな…」
「お前だってこの子から細胞を貰った側なんだぞ。昔怪我をした時ー」
「え…」

聞きたくない
聞きたくない
そんなの嘘だ!!!

「それに今回の事案はこれからの再生医療にとても大事なんだ。必ず成功させないといけない」
「父さんは…高山さんを1人の人間としてみているのか」
「人間?この子は普通の人間じゃない。そうだなぁ…特別な人間かな」

ガシっ

「っ!はっ離せ!!」ジタバタ
「連れて行け」

嫌だ!
何で?
おかしいよ!こんなのって!

言いたい事が山ほどあったけど、口を塞がれ、そしてそのまま意識を手放してしまった







「沢城くん?沢城くんってば」
「え…」
「ぼーっとしていたわよ。大丈夫?」
「えっと…」
「もうとっくに講義は終わっているのに、ずっと講義室にいたのよ?覚えていない?」
「今…何時…」
「もう16時よ」

あれ
僕は何をしていたんだろう
…あの日の夢でも見ていたのかな

「今日は鬼太郎の家でおでんパーティーしようって約束していたじゃない。これから買い出しに行く所だけど」
「高山さんの家で?!」
「そんな驚いてどうしたの?」
「あ…すみません。やっぱりちょっとぼーっとしていて」
「もう…らしくないわね。さぁ、行きましょう?」


ピンポーン

「はーい。今行くよ」

あ、高山さんの声だ

ガチャ

「やぁ、狭いけどあがって」
「お邪魔しまーす」
「…お邪魔します」

少し通いなれたこの部屋に来るのは、ちょっと久しぶりだった

「相変わらずミニマリストね。何もない部屋」
「最小限はあるってば;;; お鍋だってあるし」
「さて、早速作りましょう!はい!」
「はい?」
「私たちはお客様なの!意味わかる?」
「…僕に作れって事だね。はいはい;;;」
「僕も一緒に作ります」
「そんなっ!沢城くんに火傷なんてさせたら私たちの命がないわっ!いいのいいの!鬼太郎に任せましょう?」
「じゃ、味付けだけやらせてください」

高山さんは、面白い鼻歌を歌いながら手際良く調理して
ネコ娘さんはサラダを盛り付けてくれて
僕は計量カップと計量スプーンで調味料を計って鍋に

「あ、小さじって2種類あるんですね。間違っちゃった;;」
「そんなの気にしない!もう一杯入れちゃえば同じよ」
「豪快ですね」
「だっておでんだもの」

鍋に具材を入れてグツグツと煮込んでいる間に、カードゲームで盛り上がった

「いただきまーす!…美味しい〜やっぱり冬になったらおでんよね」
「手作りおでんは初めて食べます」
「え!?あ…庶民の味だから?」
「今じゃコンビニでも買えるからね」

モグモグ ゴクン

「…味が染みていてとっても美味しいですね。それに温かい」
「みんなで食べるとより美味しいよね」
「はい」

ほっこりする少し濃いめの味付けはとても美味しかった

「TVでもつけようか」

ポチ

「あ、これ。私の研究室でも話題持ちきりなのよ、再生医療って」
「これからの医療には必要だから」
「そうかもしれないけど;;;; 研究職の目線から見たら実験で使われている動物たちの事を考えちゃう」
「でもきっと大丈夫。その動物たちもいずれ自分の倫理観で生きていけるような世界になると思うから」
「そう?ならいいけど」
「ね、沢城くんもそう思うだろう?」
「はい」

ブルルル ブルルル

「あ!研究室から電話だわ!ちょっと隣の部屋借りるわね」

ネコ娘さんが四畳半に姿を消したら、高山さんがこんな事を言い出した

「…嬉しかったよ」
「え?」
「沢城くんが僕の事を思ってくれていたなんて」
「…だって、一緒にいたかったから」
「詳しくは言えないけど、今、ちょっと難しい培養をしているんだ。半年くらいかかりそうで、それで休学届を出した。でも、これで一応終わりになりそうなんだ」
「そうなんですね」
「うん。そしたら僕も普通の人間のように生きようと思って」
「!!嬉しいです」
「それでね、沢城くんに大事なお願いがあるんだ」
「お願いですか?」






とある動物病院にて

「急に成長したわね」
「そうか?」
「そうよ。何か変な物でも食べたんじゃないの?」
「別に」
「明後日後期試験なんでしょ?こんな所で油売ってていいのかしら」
「試験なんて最初から受ける気ないよ」
「は?留年する気?!」
「僕は臨床医になる」
「…そ。どういう風の吹き回しかしら」
「…ねこ娘…再生医療って知ってるか」





「僕の主治医として最後まで診てほしい」
「…獣医師じゃなくて、医師になれって事ですね」
「そう。どうかな?」
「…一緒に勉強してくれますか?」
「もちろん。編入手続きも手伝うから」
「わかりました」


僕はこの春から医学部へ編入し、父さんと同じ医師の道を目指す事にした




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