側に居たい秋



「これはこうで、だからこうなるんだ」
「なるほど」

今日は高山さんの家で一緒に課題をこなしていた
さすがトップ成績
聞いた事はなんでも答えが返ってくる
飲みかけのアイスティーに手を伸ばしたら

カラン バシャ!

「わっ!」
「すっすみませんっ」

よく見ていなかったせいで、飲み物を高山さんの服に零してしまった

「大丈夫。ちょっと服を着替えるからそっち向いてて」
「はっはい」

男同士なのに…
高山さんは恥ずかしがり屋さんなのかな

バサ

言われた通りに目を背けなきゃいけないのに
服を脱いだその姿に僕は目が釘付けになってしまった
高山さんの身体にはたくさんの手術跡があって
一体どうしたんだろう

「…」
「もしかして見えちゃった?」
「すみません…見ちゃいました」
「あはは。あまり気分がいいものじゃないよね;;;」
「…」

何故だろう
胸がぎゅっと締め付けられる
その強さをそのまま高山さんに抱きついて伝えてみた

「どっどうしたんだい?」
「高山さん…その身体どうしたんですか?」
「え?」
「僕…最近高山さんの事が気になって学業どころじゃないんです。もっと貴方の事を知りたい…」
「…沢城くん」

今日だって勉強を教えて貰うより一緒に居たかったから

「これは教えられないんだ」
「どうしてっ!」
「…教えたくないんだ。ごめんね」
「…親友じゃないからですか?」
「そんなんじゃないよ…僕だけの秘密にしておきたいんだ」
「…」
「大丈夫。大きな病気とかじゃないから」
「…わかりました」

秘密と言われたらそれ以上踏み込めない
無理に聞き出して嫌われたくない
もっともっと親しくなったら教えてくれるかもしれない
そんな淡い期待を持ちながら残りの課題を片付けた


高山さんのおかげもあって、僕の成績も上位をキープし続けた
でも最近の大学はつまらない
無事に単位を取得した高山さんは年明けの卒業試験だけになっちゃって
だから校内では会えなくて
…高山さんは普段何をしているんだろう



10月になったある日の夕方

「あれ?公用車?」

家に帰ってきたら裏玄関前に黒の高級車が3台駐車していた
みんなスーツを着てゾロゾロと家の中に入っていく
でも小さい頃からたまに見る光景だったからそんなに珍しくはなかった
きっとまた父さんの仕事関係だろうな
しれっと自分の部屋に行って、ソファに腰かけスマホの画面を眺めた

「…今日も連絡なしか」

今月に入ってから高山さんに全く会えなくなっちゃって
さらに連絡しても返事がすぐに返ってこなくなっちゃた
1週間前に送ったメッセージも既読になっていないし
風邪でも引いて寝込んでなければいいけど
あまりしつこく連絡しても嫌だろうから、即行動派のネコ娘さんに連絡をとってみた


翌日

『鍵は開いているから…』
「じゃ、入るわよ」
「お邪魔します」

インターホン越しに挨拶をしてドアを開けて、僕たちは高山さんの部屋の中に入った
高山さんは電気が消えている薄暗い部屋のベッドに横になっていた

「!?」
「どうしたのよ…その顔」
「ちょっとね;;;」
「手当てぐらい手伝うから言ってくれてもいいのに」
「…ごめん。でもちゃんと病院に行っているから」
「そう?ならいいんだけど」
「…」

詳しく聞いたらまたきっと秘密にされるんだろうけど
高山さんの左顔面と左側頭部がミイラ状態と言われてもおかしくないくらい包帯でグルグル巻きになっていて
事故にあったの?ってくらい見た目は酷かった
僕より高山さんとの付き合いが長いネコ娘さんはあまりその事について深く聞かずに、部屋の中を物色していた

「ちょっと冷蔵庫に何も入ってないじゃない!しっかり栄養とらないと!何か買ってくるから」

そう言ってネコ娘さんは一旦家を出て行った
僕はどうしても気になって

「高山さん…あの…」
「ん?」
「言いたくないのはわかるんですが…言えなくてもいいんです。でも、嘘だけはつかないでもらえませんか?」
「嘘?」
「その…痛いのに痛くないとか、そういう嘘です。我慢とかじゃなくて」
「…わかったよ。なんでも聞いて?」
「昨日は食事食べましたか?」
「ううん…」
「一昨日は?」
「食べれなかったよ」
「水分は摂っていますか?」
「なんとか」
「…最後に病院行ったのいつですか?」
「一昨日行ったよ」
「僕に何かできる事ってありますか?」
「側に…いて欲しい」
「!!」

そう言って僕の身体をぎゅうと抱きしめてくれた

「ありがとう…少し心が楽になったよ」
「たまには一緒に学食のあの味食べましょう?」
「あはは。あの味ね、いいね。治ったら行こうかな。連絡するよ」
「はい、待っています」

なんだか嬉しい
ネコ娘さんが戻ってくるまで僕たちはしばらく抱き合っていた


「たくさん買ってきてくれたんだね。なんだか悪いなぁ」
「だって栄養つけないといけないと思って」
「ありがとう。とりあえず今日はヨーグルトをいただくよ」
「毎日見にきてあげたいけど…」
「今日来てもらってすごく助かったよ。ありがとうネコ娘」
「沢城くんから連絡が来なかったらわかんなかったんだからね。気軽に連絡して欲しいのに…でも、今タイミング悪くてちょうど実習中なのよね」
「僕で良ければ様子を見に来ます」
「本当?沢城くんにちょっと頼んでもいいかしら。私も心配だし」
「…ありがとう」

ネコ娘さんを見送った後、ちょっと勇気を出してこう言ってみた

「高山さん。しばらくここに住み込みしてもいいですか?」
「え?親御さん心配するんじゃ…」
「そんな事ないです。しかも今はちょうど親も忙しいみたいで、家にも帰って来てませんし」
「大丈夫?」
「大丈夫です。このまま家にいて高山さんに会えない方が気が狂いそうで」
「よかったら猫も連れておいでよ」

勇気を出して言ってみるものだな
僕はしばらく高山さんの家に住む事になった


「ブランドの服ばかりだ…高そう」

高山さんは僕の持ち込んだ荷物を見てそんな事を呟いていた

「僕が選んでいるわけではないんですけど、毎月使用人が見繕って届けてくれます」
「やっぱり育ちの違いだね。あ、狭いけど使ってない部屋があるから自由に使って?」

そう言って四畳半の部屋を貸してくれた
なんだか落ち着くサイズ
とりあえず僕の荷物をそこに置く事にして、それ以外は今まで通り一緒の部屋で過ごした

「この子はニャーっていうの?」
「はい。ニャーおいで」

ニャー

「可愛いね。それに温かい」
「自由奔放な猫なのですぐうろちょろしますよ」
「普段は僕とお留守番だね」

ニャー スタスタ…

「あはは。嫌がられたかな?」
「喜んでいますよ、きっと」
「しばらく食事作れないから、食材がなくなりそうになったらネット注文でもしようか」
「はい」

恋人同士の同棲ってこんな感じなんだろうなってふと思った自分がいた



11月のある日

「そういえばさ、あの有名な女優さんが顔を火傷したのに、翌々週にはすっかり綺麗になって撮影してたんだって!凄腕の医者がいるんだね」
「お金払えばなんでもしてもらえる世界なんじゃないの?」

休憩時間にクラスメイトがそんな話をしていた
火傷か…
高山さんももしかして火傷だったのかな?
揚げ物もするし
でも側頭部まで火傷するかな…

そういえば違うクラスメイトも

「ねぇ、びっくりしたよね!ライブ中にリーダーの耳が備品に挟まっちゃったんだって!」
「痛いっ聞いているだけで痛いからやめて!」
「でさーライブを抜けて急いで病院に行ったらすぐくっつけてくれたんだって!」
「何そのぬいぐるみみたいな言い方…」

この街に形成外科で有名な病院ってこんなにあったかな
…高山さんもしかして
いや、考えてみれば耳を挟むってそうそうないシチュエーションだな
ないない
今日は病院に行ってくるって言ってたし、包帯取れているといいなぁ

そういえば、高山さんは何処の病院に行っているんだろう





「いてて…」 ピリピリッ
「綺麗に元に戻りましたよ。さすが水木さんの腕です。髪の毛はそのうち生えますから。次は…来週の月曜に血管新生が2件です。右腕で作りますから、それまであまり右手を使わないようにしてください」
「わかりました」





「ただいま」
「あ、おかえり」
「!!包帯が」
「おかげさまで今日取れたよ」
「…頭まで」
「あぁ…気になっちゃう?髪でうまく隠せなくて;;;;」

左側頭部は頭皮がL字に縫われていた
そこの髪の毛だけ短く切られているから赤い傷がよく見える

「大丈夫ですか?頭まで怪我していたなんて知らなかった」
「大丈夫だよ。あ、嘘じゃないからね」

顔はいつもの顔だった

ニャー スリスリ

「お腹空いたよね?久しぶりに料理でも…あ」
「どうかしました?」
「ねぇ、沢城くんに料理を教えるからさ、一緒に手伝って欲しいな」
「僕に!?包丁なんて家庭科の実習でしか握った事ないですよ;;;;」
「今は包丁がなくたって料理できるんだよ。大丈夫」
「…頑張ります」

高山さんは勉強だけじゃなくて料理の教え方も上手で、僕でも簡単に数品作る事ができた
それに意外と楽しい

「塩…あ、これは砂糖か。色似すぎ…」
「ふふ」
「なっなんですか////」
「いや、料理中って無意識に独り言を言うなって思ってさ」
「///// 気づきませんでした;;;;」

言われてみればブツブツと何か喋っていたような気がする;;;

「いつもより量が多いですね」
「ちょっと多めに作って冷凍しておくんだ。そうすると次の調理の手間が省けるから」
「なるほど…効率がいい」

高山さんは主夫でもやっていける、絶対

そして出来上がった夕飯は
パン(購入)
キノコのアヒージョに
ラムチョップとサラダ
オニオンスープ(インスタント)と梨
と、コース料理みたいだった

「沢城くんは料理のセンスあるよ」
「自分でもびっくりです」
「さ、ラム肉が冷める前に食べようか」

ニャー

「ニャーもラム肉食べれるよね?どうぞ」

ガブガブ

「美味しそうに食べてる」
「嬉しいよね、自分が作った料理を誰かに食べてもらうってさ」
「そうですね」

今まで体験したことのない感情だった


夜、ベッドに入ってふと床に寝ている高山さんを見たら、服の上から右腕を摩っていた

「右腕、どうかしたんですか?」
「え?いや…なんでもないよ」
「…」
「…ねぇ」
「はい」
「もし僕がさ、この右腕を失ったら、誰かが右腕を移植してくれたりすると思うかい?」
「腕を…それは難しいと思います。身体の一部はその人にとっても大事ですから」
「そうだよね。それが腕じゃなくて、腕を作る細胞を移植してもらえるとしたら、沢城くんだったら移植されたい?」
「腕を作る細胞…そうですね。それだと抵抗が少ない気がします。でも誰の細胞かは気になりますが…」
「そう…だよね」
「…」
「変な事言ってごめんね。明日もあるから寝ようか」
「はい」

高山さんは僕に何かを伝えたかったんだろうか
僕も無意識に右腕を摩りながら眠りについた




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