◆繋がった世界



「父さんは先に戻っててください」
「大丈夫か?鬼太郎?」
「はい。僕は少し休んでから帰ります」

今日も地獄での特訓が終わった
以前に比べて大きな怪我はしなくなってきたが、さすがに体力と妖力の消耗が激しい
助言役の親を先に横丁へ戻らせ、自分は疲れた身体を休ませてから家に戻ろうと思い、腰を地に降ろした
その時だった

ゴゴゴゴ…

「なんだ!?」

地響きが凄い
そう思っていた矢先、地面から恐竜の様な巨大な妖怪が突如現れた
唸り声を上げながら暴れ出している

「こっちに来る!」

全速力で逃げるが歩幅の違いですぐに追いつかれてしまう
敵目掛けて毛槍を何本か放つが

「嘘っ!」

皮膚が硬い鱗の様になっていて、毛槍が簡単に弾き返されてしまう

こうなったらもう一度地獄の鍵を開けるか
でも、これは特訓用の妖怪じゃないのは明らかだ
どうしたらー

「っ!」

攻撃を躊躇している隙に巨大妖怪の3本指に捕まってしまい、そのままメリメリと身体を握りしめられてしまった

「っああああ!!」

凄い力だ…
なんだこいつは!
はっ…左腕が折れてる
脚にも力が入らない
これはやられるっ

「うぐぅっ…」
「お前たちのおかげで俺様の様な行き場のない妖怪が生まれちまったんだ。責任を取るんだな!」
「責任って…ああ!!」

尖った爪が容赦なく高山の腹部を貫き、赤い血がボダボダと血溜まりを作っていた
揺らぐ意識の中、声を絞り出して必死に助けを求めた

「助け…て…沢…城くん」



「っ!!」
「どうした鬼太郎?」
「どこかで僕を呼ぶ声がした気がする。なんだろう…胸がざわざわする」

家の外に出ると辺りは珍しく朝靄に包まれていた

「何やら怪しい雰囲気じゃな」
「今までと少し違いますね。僕ちょっと森を見てきます」
「気をつけるんじゃよ」

森に向かうとザワザワというざわめきが凄かった

「なんだろう。この森のざわつき」

カーカーカーカー

カラスたちが何か言っている…
なんだ?

「森で妖怪が暴れてる!?道案内を頼む!」

そのまま全速力でカラスの道案内について行くと、そこには見たことのない恐竜の様な巨大な妖怪が暴れ回っていた

「この森で何をしている!」
「お前がこの世界の鬼太郎か」
「この世界?どういう意味だ」
「別世界の鬼太郎は飲み込んでやった!おかげですげぇ妖力を手に入れた!!」
「なんだって!」
「でもお前がいる限り俺が妖怪の頂点にたてねぇってことらしいからな!お前も抹殺してやる!」
「許さない…お前は絶対に許すもんか!」

髪の毛針!!!
体内電気!!!!

「効かぬわ!!!」
「わっ!!」

攻撃中に敵の長い尻尾で地面に叩きつけられてしまった

んぐっ…強いっ
ん!あれは…
高山さんの毛槍で鱗に亀裂が入っている
そこを狙えばっ!!

「霊毛ちゃんちゃんこ!!!」
「うごっ!!なぜだ!鉄壁の鱗が壊れるだと!!」
「リモコン下駄!高山さんの毛槍を打ち付けろ!」

カカン!カカン!!

「おのれ!!!こうなったらお前も飲み込んでやる!」
「はっ!あいつの中から高山さんの妖気を感じる!」

敵の口が開いた瞬間、沢城は自分からその中へ飛び込んでいった

バクっ!!

「ははは!馬鹿め!俺様の胃液に溶かされろ!!これで俺様が妖怪の頂点だ!!」

敵の胃の中で大切な人を探した

「高山さん!高山さーん!!」
「…っ…さ…」
「!!高山さんっしっかりして!!」
「ごめ…」

そして、胃壁に半分取り込まれている高山を見つけた

酷い怪我…
高山さんの身体が消えかけてる 
妖力がつきそうなんだ

「ちゃんちゃんこ、高山さんを胃液から守って傷の手当てを頼む」

早く脱出しないと
!あそこから外の光が入ってくる
きっとあの亀裂だ

狙いを定め妖力を最大限に引き上げてから、渾身の一撃を喰わらせた

「指鉄砲!!!」

バーーン!!!!

「うぎゃあああああ!!!俺様の身体が!」
「お前は絶対許さない!」
「なっ!やめー」
「はぁあああああああ!!指鉄砲!!!!」
「うわぁぁぁ!!!」

間髪をいれずにもう一撃喰らわせると巨体はグラリと地面に倒れ込んだ
その後、沢城は穴の開いた場所から高山を懸命に引き摺り出し声をかけた

「はぁ…はぁ…はぁ…高山さんっ」
「…っ」
「高山さんしっかりして!」
「…ん…さ…ゲホッ」
「血だ…喋らないで…僕の妖力を与えます」
「…っ…」
「どうしてこんな…」
「鬼太郎!」
「父さん!」
「早くこの子の世界の妖怪大病院へ連れて行くんじゃ」
「高山さんの世界ですか?」
「どうやらこの世界とこの子の世界の一部が繋がってしまっておるようじゃ」
「繋がってるって…」
「それに気がついた妖怪達がこの世界へまたくるかも知れん」
「…そんな…」
「鬼太郎、わかっておるじゃろうな」
「…っ…わかってますよ…父さん」

沢城は高山を抱えて高山の世界へと向かい、つるべ火に行き先を告げて早々に恐山へ向かった





古びた建屋に入ると

「またお前か!ほれはよ連れてこい」

また?
それよりも

「高山さんは大丈夫なのか!」
「うるさい若者じゃ!黙っとれ」
「っ!」キリッ
「睨んでも回復は早まらんぞ」
「…」ムッ
「ん?お前さんも幽霊族じゃな!ちょっと血をかせ」
「いてっ!いきなり引っ張るな!」イライラ
「時間がないんじゃ!はよっ!!」

初対面にも関わらず角の生えた強面の医者に沢城は無理やり血を抜き取られた

「お前さん凄い妖力じゃな」
「…」ツーン
「こやつもこのくらい妖力のコントロールがうまければ…」

…そういえば高山さんは前にこんなこと言ってた

『僕は昔から妖力のコントロールが上手くなくて、よく父さんに注意されたよ』

でもあんなに特訓したのに…

「妖力のコントロールって教えることはできるのか?」
「んあ?わしゃ妖怪医学以外知らん」
「…そ、じゃ話題を変える。高…いや、この子の状態は今はどうなんだ」
「瀕死じゃ。わしが本気を出さねばすぐにでも消滅する」

この老人…殴りたい
けど…落ち着け

「元は僕と同じくらいの妖力があるはずなのに、なぜこんな瀕死な状態になっている」
「なぜって地獄に行って力を使い果たしたところを運悪く狙われてしまったんじゃろうな」
「地獄!?地獄で何を…」
「だからわしは妖怪医学しか知らん!お、だいぶ血が取れた。もうお前さんに用はない。帰れ!ほれ、ちゃんちゃんこ返すわ」
「乱暴な医者だ。言われなくても…っ…おっと」グラッ…
「言い忘れたがかなり血を取ったからな。少し休んでから帰れ!」
「…高山さんの顔を見て帰ろう」

高山は薄暗い部屋に移動していた
そこは小さな窓ガラスから中を覗く事しかできない密閉された部屋だった

高山さん…
あ、溶けてた身体が戻ってきている
周りのぶら下がっているあれは僕の血かな…
…高山さん…僕に内緒で地獄でいったい何を…
とても苦しそうな表情をして…僕の胸も苦しい…

ここには何度もお世話になっているの?
ねぇ…何か言って…高山さん…

眠っている高山は何も語らない

「…早く父さんのところへ戻らないと」

来た道を戻る沢城の足取りはとても重いものだった





「父さん…」
「高山くんはどうじゃった」
「とても苦しそうで…僕には…酷だ…」
「きっと大丈夫じゃよ。高山くんを信じるんじゃ」
「…はい…信じます」
「さて、一体どことどこが繋がっておるんじゃろうか」
「さっきの場所をもう一度見てきます」

戻った場所に倒した妖怪の姿はもうどこにもなかった

「鬼太郎、妖力を研ぎ澄ませてあやつの行動を読み取ってみるんじゃ」
「やってみます」

そう言われた沢城は目を瞑り、精神力を集中させた

さっきの妖怪は沼の辺りから現れている
洞窟のような場所?を通ってきてるな
これは…見たことがない景色だ
はっ高山さんの姿!
っ…あいつ高山さんの腕をっ!酷いっ

「鬼太郎!」
「はっ」
「あまり深く読み取るんじゃない」
「すみません…」
「とりあえず今日は結界を張って、お前の妖力が回復したらまた来よう」

そう言って親子は家へと戻って行った



その翌日

「おーい」
「?」

朝早くから聞き慣れた甲高い声に呼ばれた
窓の桟に居たのは

「高山さんのお父さん!?一体どうしたんですか?」
「沢城くんや!わしの息子が暴れとるんじゃ!助けて欲しい!」
「高山さんが?!」

沢城は高山の親父を髪の毛に乗せ、急いで昨日の病院へ向かった

「これは…」
「あやつの病室じゃったが、粉々にされてしもうた」
「高山さんはどこに」
「あそこじゃ」

病室の突き破られた壁の外に高山はいた

「あれが…高山さん?!」

髪が触手の様にうねりを上げながら動き回っていて、さらに身体からは異様な殺気が漂っていた
目は焦点が合っておらず、赤い光を放っていて完全に自分を失っているようだった

「治療代だけじゃなく部屋の修理代も払ってもらうからの!」
「今はそれどころじゃないわい。鬼太郎!わしがわからんか!お前の父親じゃぞ」

全く反応がない

「今は何を言っても無駄なようじゃな」
「とほほ…どうすればいいんじゃ…」
「高山さん!」

僕も魔女に無理やり妖力を増幅させられた事があって、行き場のない力で器の身体が壊れそうだった
もしあの時と同じなら、今は有り余った妖力を出し切るしかないんだ

「高山さん!右手に左手を添えて念じるんだ!そうすると指鉄砲が撃てる!僕目掛けて撃ってこい!!」

高山は沢城に言われた通りの動きをし始め

「構えた!撃ってくるぞ!」

高山さんを救えるのは僕だけだ!

「うぉぉおおおおおおお!指鉄砲!!!!」

キュィーーーン!!
バーーーン!!!!

物凄い爆風が彼らを襲った

「ひやぁ!!飛ばされる」
「相殺か!?いや、まだ立ってるようじゃ」
「もう一発!こい!!」

ビュン!

「っ…」

首を掠った…
でも、僕はどうなったっていい!
首だけになったって、彼が戻るのなら本望だ!


大きな煙が舞い、その中から聞こえてくるのは荒い息遣いと忙しなく響く下駄の音


しばらくして粉塵が消えた頃、2人の鬼太郎は地に倒れ込んでいた

「全く!これだから幽霊族の輸血は嫌いなんじゃ!」





パチ…パチリ

「やっと目が覚めたか。待ちくたびれたわい」
「…オソレさん…僕はまた…」
「お主がいまこの世にいれるのは、あやつのおかげじゃからな」
「…!…沢城くん…」

小窓から手を振っている沢城が見えた

『高山さん』
『えっ…頭に直接沢城くんの声が』
『僕の血の影響です』
『沢城くんの血?』
『高山さんの身体の中に僕の血が流れてます。まだ全部の血が高山さんの血に変換されていないから、僕の声が聞こえているんです』
『そう…沢城くんには命を助けてもらってばかりだ。弱い自分が情けない』
『…このまま話を聞いてください。やっと今回の元凶がわかったんです。僕は先に行って戦ってきます』
『わかった。僕もすぐ後を追う』

「…ーごとに寄付じゃ!問答無用!」
「…え?何か言いましたか?」
「!!!もう用はないわ!」

沢城と会話していた最中にオソレが何かを言っていたが、何を言ってたのか全くわからなかった高山だった
とりあえず動けるようになるまで、この施設にお世話になることにした



元凶は、なんと言ったらいいのか
沢城の住むゲゲゲの森
森奥のボコボコと気泡が生まれている沼に沢城の姿があった
潜ってみると底の方に穴が開いていて、そこから気泡が湧いているようだった
その先に進んでみると

「ぷはぁ…はぁ…はぁ…ここは?」

薄暗い岩肌でできた洞窟の様な場所に出た
上を見上げると空が見え、下を覗くと真っ暗な闇が広がっていた

「まずは上から見てくるか」

滑りそうな岩肌の壁を慎重に登り、出口から顔を出してみると

「…この雰囲気…もしかして妖怪横丁か?」

限られた視界の中で感じ取ったため自信はあまりなかったが、たぶんそうだろうと心が感じ取った
出口から身を乗り出そうとしたが、封印の注連縄がかけられていたため、脱出する事は出来なかった

「今度は下か」

階段も何もない、岩肌の壁をどうやって降りよう
そう思っていた時だった
さっき自分がこの場所に来る時に通ってきた抜け穴と、この場所の下から吹いてくる風同士がぶつかり、発生した乱気流から見た事のない妖怪たちが生まれ、そのまま地に落ちていった

「一体…何が起こっているんだ」

とりあえず自分がきた抜け穴を塞いだ方が良いと思い、ちゃんちゃんこを巻きつけた拳でその穴を砕き塞いだ
自分が元の世界に戻れなくなる、そんな事は全く考えていなかった

ゆっくりと下へ下へと降りる
真っ暗で何も見えない
人差し指に妖力を込めて光を灯してみたら、あともう少しで地に足がつきそうな場所が見えた
そしてその場所に降り立ち、今度は横に開いていた大きな洞穴の様な所を抜けたら

「ここは…」

妖術で読み取った場所と同じ場所に着いた
あたりは赤黒く染まり、熱さなのか寒さなのかわからない異様な体感を感じた

「あそこにいるのは!」

視線の先に高山を襲った妖怪と同じような見たことのない妖怪たちが共喰いをしているかのように争っていた
この場に留まっていいものか
足を進めていいものか
どうしたらいい
考えが纏まらない

「っ!」

そうこうしているうちにあの妖怪たちが沢城目掛けて迫ってきた

「指鉄砲!!…駄目だ!数が多すぎる!一旦何処かに隠れよう」

沢城はそう思い背を向けて走り去ろうとしたが

「わぁ!!」

敵の攻撃から発生した爆風で硬い岩肌に身体をぶつけてしまった

「くっ…」

身体に力が入らない
このままだと…やられる

そう思った時だった

「武頼針!!」

地底から竜巻のような風を纏った高山が現れ、襲ってきた妖怪たちを蹴散らしていた
沢城は薄めを開けてその勇姿をただ見守る事しか出来なかった

「はぁ…はぁ…とりあえずまいたか。沢城くん大丈夫かい?」
「大丈夫…です。っ…」
「どこか休めるところへ隠れよう」

高山は沢城の身体を抱き抱え、身を隠せそうな場所へと移った

「高山さん…さっきのは」
「地獄の鍵を開いて針山地獄の力を解放したんだ。ハリネズミみたいでしょ?」
「凄い力ですね」
「あと地獄の炎を使う事もできるよ。でもこの力を借りるのもこの戦いで終わりにしようと思っているんだ」
「…鍵を返すと言う事ですか?」
「うん…そのつもり」
「…」
「それとね、閻魔大王から伝言があったんだ」

高山は沢城にこう言った
2人の世界が交わった事で誕生した妖怪たちを全て抹殺する事
その妖怪たちは幸いにもこの地獄の中にしか存在していない事
地獄の鍵を開いてもいい事
全て片付いたら閻魔大王の元へ1人で報告にくる事
そして代償を受ける事

「代償って?」
「それだけわからないんだ。直接閻魔大王様に会って話してみないと」
「…僕たちは出逢ってはいけなかったんでしょうか?」
「そんな事はないよ。僕は沢城くんに出逢えて本当に良かったと思っている」

そう言って高山は沢城の手をギュッと握った

「でもごめんね。こんな事に巻き込んじゃって」
「いいえ…今までの特訓の成果、見せつけるいい機会です」
「そうだね」
「さぁ、行きましょう?さっさと終わらせて高山さんの家でのんびりしたい」



2人の姿を見つけるや否や容赦なく敵が襲いかかってきた
中でも空中を飛び交っている敵が1番厄介で
足場の悪い場所での戦いや倒しても何度も何度も襲ってくる敵にだんだんと余裕がなくなってきた
一戦一戦息が上がる
そして何故か沢城が狙われる頻度が高い



「わっ!」

敵に身体を摘まれそのまま岩肌に叩きつけられた沢城は粘土質の壁にメリっと埋まってしまった
ズボッと挟まってしまった右手がどう足掻いても抜けない
その間に敵が狙いを定めて攻撃をしてきた
高山はすかさず地獄の炎で沢城に迫ってきた敵を焼き尽くす

「沢城くん!」
「駄目だ抜けないっ!高山さん!僕の手首を毛剣で切り落としてくれ」
「なっ!何を言うんだ!」
「大丈夫…後でちゃんとくっつくから。早く!」
「っ…」

高山は迷いもせずにシュパッと、毛剣で沢城の右手首を切り落とした
落下してきた沢城の身体を抱き抱え声をかける

「大丈夫?」
「っ…大丈夫…早くここから出よう」

2人は全速力でその場を振り切り、見つけた洞窟で束の間の休息をとることにした
そして、しばらくしてから沢城の右手が持ち主の元へ戻ってきた

「手はくっつきそう?」
「ん…今はちょっと妖力が足りなくて、くっつくのに時間がかかりそう。せめて糸と針でもあれば…」
「糸と針…あ。沢城くんちょっと手首貸して」

高山は自分の髪で針と糸を作り出し、応急処置をしてあげた

「僕の髪だけど上手くくっつくといいな」
「凄い…もう指が少し動く。高山さんの妖力のおかげだ。ありがとう」
「仮縫いで縫い目が下手だから、ちゃんとくっついたら抜いてね。少し僕の膝枕で休んで」
「うん…」
「次はもっと強い妖怪が襲ってくるはずだ。休めるうちにしっかり休まないと」

高山はそう言って沢城に優しく口付けをした

「んっ…ちょっと鉄の味がします」
「口の中切っちゃったからね。明日には治ってるはずだから…今はごめん」
「ううん…先に休みます」
「おやすみ、沢城くん」

沢城くんはこの世界の地獄の環境に慣れてないんだ
僕が先導しないと

高山はそう意を決してから、自身も仮眠をとった



地獄での時の流れは感じられない
全く変わる事のない風景
もうどれくらいの時間を過ごしたのかもわからなかった
そんな中で2人の世界が交わって生まれてしまった妖怪たちをなんとか全部退治した
限界を迎えた身体が悲鳴をあげている
あとは

「あとは閻魔大王に会いに行けば…うぐっ!!」

高山の右足には、最後の敵に跳ね返された自分の毛槍が刺さったままだった

ブシュ…

毛槍を引き抜くと血がドグドグと流れ出る
ちゃんちゃんこで患部を縛って止血を試みるとなんとか止まったようだった

「高山さん…歩けます?」
「ん…引き摺ってなら歩けるよ。大丈夫…」
「僕がおぶります」
「でも沢城くんは左腕を怪我してー」
「右腕があれば支えられる。さ、背中に乗って」
「…ありがとう」

沢城の背中におぶさり、目指す場所へ2人で進んだ



薄暗い道をどんどん進む

「なんだか懐かしいなぁ…」
「初めて会った日も同じようにおんぶしてましたね」
「でもあの日よりも何倍も嬉しいんだ」
「…だって僕たち恋人ですから」
「恋人…そうだね」



どこまでも続いていた道が行き止まりの壁に辿り着いた

「沢城くんありがとう、ここからは自分で行くよ」

壁に突如現れた金色の扉
その扉が開くと高山は足を進めた

「…高山さん」

右足を引き摺るあの歩き方を忘れるはずない
あと一歩で扉の世界へ消えてしまう
なぜだろう
もう高山さんに会えない様な気がする

「あっ…」

そう思った沢城は高山に触れようと手を伸ばしたが、虚しくも空気を掴むだけ
でもちょうどその時、高山は立ち止まって振り向き

「沢城くん、父さんや横丁のみんなをお願いね」

と一言告げて金色の扉が閉まると同時に姿を消した
その直後

ビューーーーーー!!!

「うわっ!!!」

強烈な突飛が起こり、沢城は天高く飛ばされてしまった



どこまで飛ばされるのか
薄れいく意識の中で沢城は身を任せるしかなかった






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